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遠ざかる二人の背中を見つめていた私の手を、コーヘイが握った。
伝わってくる体温に、麻痺していた感覚が、じわん、と戻ってくる。見上げると、コーヘイはまた、叱られた犬のような顔をしていた。
「俺、アカリのことが好きだよ」
二回目の告白。
ふっと胸が温かくなった。コーヘイの体温を探るように、指先でその手のひらをなぞった。
誰の目も気にしなくていいこの手は。
触れることをためらわなくていいこの手は。
心がふわりと軽くなる。
コーヘイの隣なら、ずっとこんな気持ちでいられる。「好き」という気持ちは、本当はこんなにも穏やかなものなのかもしれない。
ぎゅうっとコーヘイの手を握りしめると、コーヘイが驚いたように私を見た。それから、いつもの無表情が崩れて、ふにゃりと笑った。六組の岡崎さんも四組の白川さんも、それに、私もマユもユータも知らなかったコーヘイの顔。
こうやって、知らなかったことを知って、想いを重ねていけば、私はコーヘイを「好き」になっていく――の?
「俺たちも行こうぜ」
そのとき、コーヘイの手から私の手がするりと滑り落ちた。指先からコーヘイの体温が消える。私たちを照らす夕陽のオレンジは、こんなにも温かい色をしているのに、どうして指先が冷えていくんだろう。
「ごめん」
それはきっと――私が欲しいものじゃないから。
私は、もう小さくなってしまった背中に向かって走り出した。コーヘイの声が聞こえた気がした。なんて言ってるんだろう。ユータの声なら、どんなに遠くにいても、どんなに小さくても、すべて聞き取ることができるのに。
いつか私が、もっともっと大人になったら、優しくて、温かくて、穏やかで、世界の全てが肯定してくれるようなコーヘイの気持ちを、愛おしく思うのかもしれない。
もしかしたら、いつか、この手を離したことを後悔するのかもしれない。だけど、私はまだ子どもで、どうしようもなくバカで、欲張りだ。
誰かに見られちゃいけないと分かっていても、そばにいたいと思う。
触れることをためらう手だからこそ、触れたいと願う。
全身が張り裂けそうで、苦しくて、叫び出したいくらい不安で、私がいま手にしている全てを失っても、他の誰が不幸になっても構わないから、それでも――っていう、この気持ちにしか「好き」という言葉が当てはまらない。
だから、私はあの日の約束を――仲良し四人組を守らなくちゃいけない。
ユータとマユとコーヘイと私は、ずっと、いつまでも変わらない友達。ねえ、そうでしょう?
地面を蹴るたびに、足に合わなくなったローファーが、消えない傷が付いたローファーが、私の足を締め付ける。
ずきん。ずきん。ずきん。ずきん。
それは、私の心の鼓動。痛くて痛くてたまらない。だけど、止まったらきっと死んでしまう。だから、まだ新しい靴は履けない。
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