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「コーヘイのやつ、相変わらず性格悪いんだから」
コンビニに向かうコーヘイの背中に、マユはぷぅっと頬を膨らませた。しかし、すぐに表情を明るくして、ユータのブレザーの袖を引く。
「ね、ほら見て。SNSでもけっこうこの店の書き込みあるんだよー。これとかすっごく美味しそうでしょ。ね、ユータは何食べる?」
スマートフォンの小さな画面をのぞき込む二人の髪の毛が、かすかに触れ合っていた。
「どーすっかな。一番人気あるやつってどれなの?」
「えっとね……あ、ほらアカリも見てよ」
「はいはい」
少し身をかがめて、マユとユータの間から画面をのぞきこんだ。でも、ユータの二の腕にさり気なく添えられたマユの手が、私を遮ってしまう。
「あ。カボチャのクレープってあれじゃね?」
「ホントだ! うわぁ見てよ。ちょー美味しそう! あたし、絶対アレにする!」
店から出てきた人のクレープを指差して、マユが大騒ぎした。気まずそうに、そそくさと立ち去るその人に、すみません、と心の中で謝りながら軽く頭を下げる。
「ちょっと、マユ」
「え、アカリ、どうかしたの?」
まったく。マユの天真爛漫さには恐れ入る。出会ったときからずっと変わらない。くるくる変わる表情と、人に許されることに慣れたその性格は、憎たらしいほどに魅力的だ。
「別に。私もカボチャのクレープ食べようっと」
「えー、アカリは違うのにしてよ。同じだと意味ないし」
「意味なくないでしょ。私はそれが食べたいんだから。あ、半分こしようなんてダメだよ。私はあれを一人で一個、全部食べるんだから」
「欲張り」
「欲張りでけっこう。じゃあ、マユが違うの頼んでよ。そしたら一口くらい分けてあげてもいいけど」
「やだ。あたしはここにくる前から決めてたんだから。アカリが違うのにして」
「私だって――」
「はいはい、ケンカしないの。マユとアカリはカボチャ、俺が違うの買ってマユと半分こ。それでいいだろ」
いつものように、ユータが私たちを取りなす。やっぱり、ユータはマユに甘い。コーヘイじゃないけど、甘すぎて胸焼けしてしまいそうだ。
「は? まだ買えてねーの?」
コンビニの袋をぶら下げて戻ってきたコーヘイが、未だに長い列の真ん中あたりにいる私たちを見て、わずかに目を丸くする。
「仕方ないでしょー。次はあそこの公園でベンチ取っておいてね」
「人使い荒すぎ。最低」
ぶつぶつ言いながら、コーヘイは公園に向かっていく。いろいろ不満はあっても、けっきょく私たちは、こうやってマユの思惑通りに動いてしまうんだから、本当にどうしようもない。
ゆっくりと列が進んでいくにつれ、甘い香りが強くなる。周りの景色はちっとも変わらないのに、私たちの立ち位置は確実に変わっている。
「お待たせしました。次のお客様どうぞ!」
秋の涼しさに不似合いな汗を額に浮かべた女性店員が、営業スマイルで私たちを呼んだ。
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