くるりとくるんで、ひとまとめ

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「んーっ! 最っ高!」  クレープを一口食べたマユが叫んだ。  評判だけあって、確かに美味しい。キャラメリゼされたカボチャは甘いだけじゃなく、ちょっとほろ苦い。粒あんの主張しすぎない優しい甘さ、生クリームのコク、それら全部がもちもちの生地と一緒に口の中で混じり合って、まさに天国。 「最後の晩餐って感じ。テスト期間終わっちゃうし、明日から部活漬けだもん」 「ああ、そっか。吹奏楽部はもうすぐ定期演奏会だっけ」  吹奏楽部に所属するマユが、げんなりした顔でうなずいた。  中学三年生のとき、私たちの進路を決めたのはやっぱりマユだった。マユが行きたい! と言ったのは、吹奏楽部の強豪校。五才からフルートを習っているマユは、その定期演奏会を見に行って、大いに感動したのだという。 「絶対、あそこの吹奏楽部に入りたいの!」 「だったら、みんな一緒のほうが楽しいよな」  ユータのそんな一言で、特にやりたいこともない私もコーヘイも同じ高校を受験し、そして合格した。  念願の吹奏楽部に入部したマユはとても楽しそうだったけれど、大会前や、春と秋に行われる定期演奏会前になると、あの部はまるで地獄だ、このままじゃ殺される、とこぼしていた。  特に演奏会は一般にも公開されるから、顧問の先生も部員たちも、ものすごく気合いが入るらしい。 「今回の定演で三年生が引退だからさぁ、これからはお前ら二年が引っ張るんだぞって先生にもさんざん言われてプレッシャー半端ない」 「マユなら大丈夫でしょ」  のん気にクレープをパクつくマユが実は努力家で、吹奏楽部の活動に対して真剣であることを私たちは知っている。部活動が停止されるテスト期間ですら、机に向かう時間よりも楽譜に向かう時間のほうが多かったに違いない。  きっと、そのプレッシャーだっていいものに変えられる。マユなら、きっとそう。 「えへへ。ありがと、アカリ。――あ、ユータ。そのクレープちょうだい!」  マユが身を乗り出して、ユータの手にあるチョコバナナのクレープにかじりつく。 「ん、これも美味しい!」 「おいおい、緊張感ねーな」 「いいの。まだ部活始まってないんだから」 「アカリも食うだろ?」  ユータが差し出すクレープに、私は首を横に振った。 「いらない。こっちのほうが美味しいし」 「ちょ、アカリ。それヒドくね?」  弾けるようにマユが笑い、それにつられてユータが、コーヘイが、そして私が笑った。  ユータとマユが口をつけたものを食べるなんて無理。二人の関係を私の体の中に入れるみたいで、想像しただけでもぞっとする。  右手の小指をそっとなぞる。必死に、あの日の感触を思い出していた。  友達を誓う指切りをきっかけに、私はユータに恋をした。  オレンジ色に染まるユータの横顔に、触れ合った私とユータの体温に、私の中で完璧だったはずのバランスが崩れてしまった。   だけど、ユータがマユに告白して付き合うことになった中学の卒業式に、そのバランスはもっとおかしくなった。 「俺にも一口ちょーだい」  コーヘイがいきなり私のクレープにかじりついた。柔らかい生地が破けて、あふれた生クリームが私の手を汚す。食べないっていったくせに。
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