異世界転生ではずれスキルを引いた私はあいつが大嫌い

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 私は、あいつが大嫌いだ。  容姿端麗、眉目秀麗。  人柄も良く、性格も良い。  …私なんかとは違って、昔から欠点なんかどこにも見当たらない、誰からも愛される、そんな奴。  私は、あいつが大嫌いだ。  あいつは、異世界から来た転移者。  最強の加護を得た装備と、「自身の時を伸縮させる」なんてチートじみた能力を与えられたらしい。  …同じ転移者である私なんかとは雲泥の差の、最強の転移者。  私は、あいつが大嫌いだ。  私は向こうの世界で儀式を行って、こっちの世界にやって来た、あいつと同じ転移者。  与えられたスキルは、生涯一度だって使えない、はずれスキル。  …死に物狂いで学んだ魔法でようやくどうにか生きている、転移の失敗者。  私は、あいつが大嫌いだ。  ある時、そんなあいつとあたし、そして他の数人の転移者でパーティーが結成された。  みんなみんな、超が付く程強力な魔法や唯一無二のスキルを持つ転移者ばかり。  結成された理由は、ただ一つ。  魔王城で生まれる、世界を終わらせる魔王を、討伐する事。  …なんで私が、このパーティーに選ばれたのだろう? 「君は莫大な魔法の才を持っている」  うるさい。 「世界広しと言えど、君以上に魔法の才を持つ者はいないよ」  黙れ。黙れ。 「…だから僕は、君をパーティーに引き入れた」  うるさい。うるさいうるさいうるさい。 「…心の底から、君を、頼りにしているよ。サイカ」  …昔から、適当な事ばかり、言いやがって。  だから私は、お前が、大嫌いなんだ。  私達は、道無き道を進む。  どうにかこうにか、進んでいく。  困難にぶつかる度、絶望が立ち塞がる度、そいつは言うのだ。  笑って。  困難にぶつかっているのに。絶望が立ち塞がっているのに。 「大丈夫っ!君達なら、絶対絶対、乗り越えられるよっ!」  転移者には、様々なパターンがある。  私の様に儀式を用いる者。導かれて来た者。強制的に呼び出された者。  …そしてあいつの様に、自ら命を絶ち、選ばれて転移した者。 「…僕は向こうで…人生に絶望して、自ら命を絶った」  みんなが寝静まった頃、あいつは言う。 「その魂に蓄積された怨磋の力を見初められて、最強の武装とスキルを与えられて、こっちの世界に来た」  私だけの為に紡がれた、最強の勇者、その秘密を。 「…だからこっちの世界で、僕はもう一度、人生をやり直したい、運命に抗いたいって思ったんだ」  パチンと焚き火が弾ける。 「…君には話したい、話しておかなきゃいけない。  そうだろう?サイカ」  そいつは、悲しそうな、苦しそうな…何かを覚悟した様な顔で、そう言ったんだ。  私は、あいつが大嫌い。  人柄も良くて、性格も良くて、私なんかとは違って、欠点なんかどこにも見当たらない、誰からも愛される、そんな奴だから。  私は、あいつが大嫌い。  こんな、卑屈で、惨めで、自分の意志で元の世界を捨てた私にも優しいから。  私は、あいつが大嫌い。  いつもいつも、何もかもどれもこれも、嘘ばかりだから。 「ああ、できるなら、このままずっと…ずっと、旅を続けていたいなぁ」  私は、あいつが大嫌い。  大嫌い。大嫌い。大嫌い。 「僕は、君の事が好きだよ。  昔から、ずっとずっと」  …そんな事を、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに言うあいつが、大嫌い。  このパーティーは、最強の転移者であるあいつを中心に、厳選に厳選を重ねて結成されたらしい。  私なんかは始めから選考から外れていた…そもそも選考の中にすらいなかったのだ。  その選考の場で、あいつは言ったそうだ。 「彼女をパーティーに入れて下さい」 「彼女はこの戦いに、必要不可欠な存在です」  たどり着いた、魔王の城。  誰もいない。もぬけの空。  世界を滅ぼす魔王なんて、どこにもいない。  動揺する私達を後目に、あいつは魔王の玉座に向かう。 「良く来た。転移者達よ。  僕が魔王。…世界を滅ぼす、最強の魔王だ」  あいつは世界を呪った。  恨み、憎み、怨磋の声に身を蝕まれ。  それを、悪魔に見初められ。  世界を滅ぼす、最強最悪の転移者が生まれた。  誰も勝てない。  そりゃそうだ。  あいつは最強の転移者なのだから。  あいつは自身の時を伸ばし、時を縮め。  そうしてパーティーは、私を除いて、全滅した。 「ずっとずっと、苦しかった」 「ずっとずっと、辛かった」 「それももうすぐ、終わるんだね」 「…ねぇ、僕の事、覚えてる?サイカ」  忘れる訳無いじゃないか。  忘れられる訳無いじゃないか。  向こうの世界での、中学時代の私の親友。  …高校に上がるより前に私を置いていってしまった、たった一人の、私の親友。 「死ねば楽になるって思ってた」 「死ねば救われるって思ってた」 「だから僕は死んだんだ」 「…けれど、僕はこうして、悪魔に魅入られて、悪魔の操り人形になってしまった」  そいつは笑う。  狂った様に。壊れた様に。 「運命からは逃げられない。未来は定められてしまった。  …僕は、世界を終わらせる神様になっちゃうんだ」 「ねぇ、サイカ。  僕と一緒に、世界を終わらせよう?  こんな世界なんて、終わらせたって良いでしょう?  …それが出来ないなら、僕を、殺してよ。  僕を殺して、この物語を、終わらせて。  …………僕を救ってよッ!ねぇッ!サイカッ!」  あいつは笑う。  笑いながら、泣いている。  私は、あいつの事を知っている。  ずっとずっと、ずっと一緒に、いたのだから。  あいつは優しい。優し過ぎるんだ。  だからあいつはきっと、自分より、世界を優先する。  自分の死より、世界の終わりを悲しむ奴なんだ、あいつは。  だから、あいつを救うには、あいつを殺すしかない。  …私は。  私は、また、あいつを失うのか。  私は、また、親友を、失うのか。  →魔王を殺して世界とあいつを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、あいつが大嫌いだ。  容姿端麗、眉目秀麗。  人柄も良く、性格も良い。  …私なんかとは違って、昔から欠点なんかどこにも見当たらない、誰からも愛される、そんな奴。   魔王を殺して世界とあいつを救う  →魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、あいつが大嫌いだ。  最強の加護を得た装備と、「自身の時を伸縮させる」なんてチートじみた能力を与えられたらしい。  …同じ転移者である私なんかとは雲泥の差の、最強の転移者。  →魔王を殺して世界とあいつを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、あいつが大嫌いだ。  私は、むこうの世界で儀式を行って、こっちの世界にやって来た、あいつと同じ転移者。  与えられたスキルは、生涯一度だって使えない、はずれスキル。  …死に物狂いで学んだ魔法でようやくどうにか生きている、転移の失敗者。   魔王を殺して世界とあいつを救う  →魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、あいつが大嫌いだ。  私を置いて、先にいってしまったあいつが。  私があの後どれだけ惨めだったか、私があの後どれだけ絶望したのか。  きっとあいつは、死んでも分からないだろう。  →魔王を殺して世界とあいつを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、あいつが大嫌い。  →魔王を殺して世界とアスカを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、あいつが大嫌い。  →魔王を殺して世界とアスカを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  でも、あいつをまた失うのは、きっと耐えられない。   魔王を殺して世界とアスカを救う  →魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  そんな事をすれば、今度は私が壊れてしまう。  悪魔に魅入られ、次の魔王になる。   魔王を殺して世界とアスカを救う  →魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、  →魔王を殺して世界とアスカを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、   魔王を殺して世界とアスカを救う  →魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、  →魔王を殺して世界とアスカを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、   魔王を殺して世界とアスカを救う  →魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私は、  →魔王を殺して世界とアスカを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私に与えられたスキルは、生涯一度だって使えない、はずれスキル。  →魔王を殺して世界とアスカを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私に与えられたスキルは、生涯一度だって使えない、はずれスキル。   魔王を殺して世界とアスカを救う  →魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  私に与えられたスキルは、生涯一度だって使えない、はずれスキル。   魔王を殺して世界とアスカを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  → 「これから、死にたいって叫ぶかもしれない」  杖を構える。  冒険の道中にあいつが見つけてくれた、最強の杖。  魔法陣が展開する。  放つ光は、聖なる青。 「すっごく痛いかもしれない、すっごく苦しいかもしれない、すっごく辛いかもしれない。…死んだ方がマシだって、思うかもしれない」  魔法陣の性質が変わる。  青から赤褐色に。…聖から狂に。 「だけど、それでも。  世界も、あんたも、終わらせないから。  全部全部、救ってみせるから。  …私もこの一瞬に、命を捧げるから」  私のスキルが発動する。  生涯一度だって使えない、はずれスキル。   魔王を殺して世界とアスカを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  →  私のスキルは、  生涯で、たった一度だけ、  逃げられない運命を、定められた未来を、あらゆる不可能を、覆すスキル。  …呪詛にも似た祝福を、自らを代償にして対象に与える、狂気のスキル。 「…どうかどうか、幸せになって、アスカ」   魔王を殺して世界とアスカを救う   魔王を殺さずに世界を滅ぼさせる  →自らの命を代償に魔王を殺さずに世界もアスカも救う  あいつは、笑う。  疲れ切った、けれど、今までとは比べ物にならない笑みで。 「ようやく名前で呼んでくれたね、サイカ」 「………………、………………か、い…………ーーーー?」  うつらうつら。  すぅすぅ、すやすや。 「………………………、おーーーー……………………、………………すかーー……………………………?」  ふわり、ふわり。  ゆらゆら、ゆらゆら。 「お………………、おーーーー………………………………………おーいあすか起きてぇーーーーーーーーっ!」 「うわっ!?」  意識が覚醒する。  現実に、呼び戻される。  目の前にいるのは…………誰だ?  頭がぼぅっとしている。  目の前がふわふわしている。 「やぁっと起きた!もう放課後だよ?」 「…………?」 「…………もしかしてまだ寝てる?  もしもーし?あすかー?おーーーーい?」 「……………………みさ…と…?」 「…あすか本当に大丈夫?なんだかとっても調子悪い?」 「…………ううん、大丈夫。  ありがとね、みさと」  頭がはっきりしてくる。  思い出す。  こいつはみさと。僕の親友。  この高校で出来た、大切な、大切な親友。  …ああ、なんでこんな事、忘れていたんだろう。 「…………なんだか、悪い夢を見ていたみたい」 「うん。  授業中もめっちゃ苦しそうに眠ってて、先生達も流石に起こせなかったみたい」 「…………いやいやいやいや僕いつから眠ってたの!?」 「んー…五時限目の頭から?」 「いや起こして!?  うわぁノートどうしよ…!?」 「はっはっはー!  このみさとさんが助けてしんぜよー!」 「本当!?助かる!」 「クレープ一個ね」 「おおう…」  帰り道。  みさとにノートを写させて貰って、クレープをご馳走して、その帰り道。  大丈夫?って、みさとはとっても心配そうな顔で聞いてくれたけれど。  クレープをたいらげる頃にはもうすっかり調子も戻ったし、だから大丈夫。  そう言って、みさと別れた、帰り道。  …本当に、悪い夢を見ていた。  自殺した僕が異世界に転生して、魔王を討伐する為に勇者として戦って、けれど実は僕が魔王で…。  …………それから先が、思い出せない。  何かあった気がする。  何かがあって、何かが起きて、そしてこうなった。  …………何が、あったんだろう…? 「思い出さなくて良いんだよ。  アスカは、幸せになって、良いんだよ」  一瞬だけ、誰かが見えた気がした。  白いローブ、白い大きな杖。 「 …大丈夫。  貴方なら、絶対絶対、乗り越えられるから」  その人は微笑む。  優しく。嬉しそうに。…ほんの少しだけ、悲しそうに。  貴方は誰?  問うより先に、瞬きの間に、その人は消える。  消えて、僕の視界から消えて、僕の記憶から消えて、僕の意識から消えて。  そして僕は、生きていく。  現実を…異世界じゃない、この現実の世界を。  …これから先、死にたいって叫ぶ事があるかもしれない。  すっごく痛いかもしれない、すっごく苦しいかもしれない、すっごく辛いかもしれない。  …死んだ方がマシだって、思うかもしれない  だけど、それでも。  世界も僕も、終わらせないと言ってくれた誰かがいるから。  全部全部、救ってみせると言ってくれた誰かがいるから。  その一瞬に、命を捧げてくれた誰かがいるから。  …誰かが、幸せになって良いって、言ってくれたから。  僕は生きていく。生きていくよ。 「幸せになるよ。サイカ」  小さく呟いて、僕は家に帰る。  明日を、笑顔で迎える為に。  大好きな世界で、生きていく為に。
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