0人が本棚に入れています
本棚に追加
おかしい。故障だろうか?
「怒」の数値が70を指している。
そんなはずはない。勅使河原さんの顔は、いつも通り穏やかそのものだ。
「きゃっ」
横溝さんが小さく叫ぶ。
勅使河原さんが横溝さんのデスクの横を通りかかった瞬間、横溝さんがホットティーの入ったカップを倒したのだ。
グレーのスーツ姿の勅使河原さんへ、紅茶がまともに降り注ぐ。
特に下半身が大惨事だ。
「ごめんなさい! 勅使河原さん」
慌てて謝る横溝さん。
勅使河原さんはポケットからハンカチを取り出しながら、穏やかに言う。
「気にしなくていいです。安物ですよ」
だが勅使河原さんのピシッと一本線が入ったスラックスは、とても安物には見えない。
いや、そんなことは問題ではなかった。問題なのは、装置の数値だ。
最初のコメントを投稿しよう!