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暗い。 窓のない部屋に男女が向き合う形で座っている。入口につけられたドアは思い鉄製で、のぞき窓がつけられてはいるが、そこには鉄格子がはめられている。牢屋のような堅牢さが男女の間に流れる重い空気をより一層深くしていた。 「お前の行いの行きつくところは、国に対する反逆の罪だぞ。大罪だ。」 重い空気を破るように口を開いた男は、膠着状態の中でイライラしているのかしきりに足をゆすっている。 女は顔を下に向けたまま何も言わない。 「何とか言ったらどうなんだ。」 怒りの頂点に達した男が力任せに机を叩く。 同じタイミングで「カチャリ」という音が、女の後ろでなった。 「警部。こいつは殺しましょう。」 女が逃げないようドアの近くで立っていた男が拳銃を構えている。 「ここで殺したとして、誰にも分かりません。」 先ほどまで、怒りを露わにしていた男も部下の突然の行いに言葉を失っていた。 「警部。貫通した弾がどこへ行くかわかりませんから。どうぞ、どいてください。」 女に向けられている拳銃はいよいよ、女の後頭部へピタリと押し付けられた。 「すまんな。こんなところで死ぬのは本望ではないだろうが、まあ、自分の行いを悔いてくれ。」 男の人差し指に力が入る寸前。 女が口を開いた。 「最初に申し上げました通り、私が新聞売りの男に言ったことは嘘ではございません。」 「それは何度も聞いた。」 「そして、私は国家滅亡から逃れる術も、神の言伝により聞いております。」 男の銃がゆっくり下ろされる。 椅子から立ち上がり、呆然と突っ立っていた男が気を取り直したように椅子に座った。 「それは、どんな言伝なんだ。」 「ですが、ここで言ってもあなた方は信じてくれないでしょう。」 女がゆっくりと顔を上げる。 机に置かれたランプに黒々とした双眸が照らされ、その二つの目は挑戦的な視線を目の前の男に向けていた。 「どうです。いくつか実験をなされては。私の力がそれで証明されればあなた方のその後の活動の担保となりましょう。私も少しばかり長生きしたいので、実験の後に逃れる術も教えて差し上げます。」 目の前の男は妙に威圧的な女にすくみ、後ろの男は「化け狐め。」と舌打ちをした。
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