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まってはいけない。
オキエ団地で待ち合わせをしてはいけない。
そう聴いた瞬間、私の胸に湧き上がってきたのは“何それ面白そう”という興奮と興味だった。
「オキエ団地ってあそこでしょ、超ボロボロのオバケ団地!」
「そんなデカい声で言うな雪乃。そのボロボロの団地に住んでる奴だっているんだぞ」
「あ、ごっめーん」
現在地、私のクラスの教室。
現在時刻、朝のホームルーム前。
私が話している相手は、中学からの男友達である友哉だった。この近隣に高校はあまり多くはない。遠くに行ってまで頭のいい学校に通いたくない、くらいの生徒の多くはこの高校に流れる傾向にあり、私と友哉もそのクチだった。だから友哉を含め、学校には妙にオナ中が多い。彼の場合はもっと偏差値の高い進学校にも行けた筈なのだが、純粋に家があんまり裕福でなかったので地元の公立にしか行けなかったというパターンである。まあ、本人は大学はともかく高校はそこまでこだわっていなかったようなので、さほど問題ではなかったようだが。
で、私と友哉が何を話しているかと言えば。ズバリ、“小説のネタになりそうな面白い怪談とか都市伝説とかない?”だった。文芸部に所属し、趣味でも小説を書いている私が今一番ハマっているのがホラー小説である。二か月後締切のホラー小説コンテストに応募するべく、ネタを集めている真っ最中なのだった。ちょっと動き出すのが遅いと言われそうだが、そもそもコンテストの存在を知ったのが遅かっただからどうしようもない。とにかく今から一刻も早くネタを集めて、十万文字以上の長編を一本書き上げなければいけないのである。
「ていうか、本気でホラコンに出すつもりなのかよ」
友哉は呆れたように言った。
「小説書くのにハマるのはいいけど、お前人の小説は全然読まないじゃん。小学校から読書感想文は鬼門だったし今もムリ!って騒いでたのどこの誰だよ」
「人の作品読むのは好きじゃないけど自分で書くのは好きなのー」
「そんなやつにまともな小説書けるもんかねー」
「なにおう!?」
書き専の何が悪いんだ、とプンスコする私。実際、登録している小説投稿SNSにも、書き専を自称している人は少なくない。普通に本屋で売っている文庫本でさえ読む気にならないのに、他の素人の投稿小説を読みたくならないのは至極当然のことではないか。というか、読んだら閲覧数がつく。自分の作品でさえPVは雀の涙なのに、他の読者のPVを増やして喜ばせるなどなんだかムカつくというものである。
とにかくさっさと受賞でもなんでもして、自分の実力を見せつけてやらねば気が済まない。私はイライラと、友哉の机を指で叩いた。
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