恋愛小説化

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「――続きが書けない!」  しかし、僕の文才では物語を書き進めることができなかった。いくら小説の投稿サイトを検索しても、『好きな女の子と一緒に街の歴史を調べたことで仲良くなり、最後は恋人同士になる』という小説は存在しなかった。  僕は受験勉強の間に、自らの力で恋愛小説を書くためにあらゆる努力を続けた。小説はもちろんのこと、映画やドラマ、漫画など、あらゆるメディアの恋物語を吸収していった。  だが、残された時間は少ない。僕は地元の大学に進学するが、岬さんは別の地方の大学に進学するらしい。僕は告白のタイミングを卒業前と定めた。そこに至るまでの工程を、小説のプロットという形でまとめた。  そして、拙い文章ではあるものの、物語の続きを書き始めるのだった。 「……ってもうインクが切れたんだけど」  執筆を再開した直後、神様からもらったペンのインクが出なくなった。『安物の神社グッズを渡しやがって』と僕は毒づき、別のペンを使って続きを書くことにした。  さて、僕の書いた物語に従うと、まず岬さんと連絡先を交換することになる。今日は彼女と一緒に学校の図書室で街の歴史を調べていた。僕は巻物に書いたセリフを思い出しながら、彼女に声をかける。 「図書室で調べるだけでは、本当のことは分からないと思うんだ。街へ出てみるのはどうだろう」 「街に?」 「うん。実際に歴史的な建物を訪ねて、レポートを書いた方がおもしろそうだと思ってね」  岬さんは少し考え込むように、僕から視線を外した。よしよし、自然に台詞が言えてるぞ。もしかしたら僕には役者の才能があったりして。  僕は話を続ける。 「それに、受験勉強のせいで家にこもりがちになってない? 少し息抜きした方が、きっと勉強も捗る」  彼女は口元を緩めた。 「たしかにそうね。でも少しというより、大っぴらに息抜きしたいのが本音じゃないの?」 「かもね」  二人で静かに笑い合った。僕は『今だ!』とタイミングを見計らい、決め台詞を放つ。 「街に行く予定も立てたいし、連絡先を交換しておかない?」  岬さんはほんの数秒考えた後、鞄の中からスマートフォンを取り出した。 「いいよ」  僕のスマートフォンのディスプレイに岬さんの連絡先が表示され、思わず笑みを浮かべた。  ふふ、計画通り。だが、本番はこれからだ。
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