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それから、僕と岬さんの関係は少しずつ進展していった。
歴史調査の名目で、休日に一緒に出かける機会が増えた。ただ調査だけでなく、カフェで甘い物を口にすることもあった。外を歩く時はさりげなく道路側に陣取り、突然の雨では一つの傘を共有し、彼女が濡れないように努めた。
もちろん、全て僕の書いた小説の展開通りで、彼女の好感度を上げるための作戦だ。前触れもなく告白して付き合うなんて、恋愛小説の体をなさなくなってしまう。リアリストの僕が描く小説は、恋が成就するまでのリアルさが売りなのである。
「二人とも、本当にありがとね」
結局、文化祭の展示物は僕と岬さんのほぼ二人で作り上げてしまった。他のメンバーからの感謝の言葉に、僕と岬さんは顔を見合わせて、ふふんと鼻を鳴らした。
文化祭が終わった後も、勉強の息抜きを口実に、休日に会う日々が続いた。僕がせっかくなら一緒に勉強しない、と提案すると彼女は快く了承した(もちろん、これも僕の書いた小説通りの展開である)。
巻物にすべての事象を書けるわけはないので、行間に予想外の出来事が起こることもあった。僕はその度に大いに焦った。
休日、図書館で一緒に勉強していた時のことだ。昼休みになり、コンビニに昼食を買いに行こうとしたら、
「作りすぎたので食べてくれない?」
と彼女は恥ずかしそうにお弁当を差し出した。僕がいつも菓子パンを食べているのを見かね、準備してくれていたのだった。
とても嬉しいが、小説に書いてない出来事だけにどう反応するのが正解か分からない。僕は彼女を喜ばせようと、いかにこのお弁当が素晴らしいかを語り続けた。小説を書き続けたおかげで飛躍的にアップした語彙力に助けられた。
「そんなに美味しかったのなら、また作ってくるね」
彼女は僕の言葉にクスクスと笑った。よし、この続きのエピソードはぜひ巻物に書くことにしよう。
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