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この写真を見て欲しい。
これは、かつて今川家の居城だった駿府城の跡地にある駿府公園で撮影したものだ。
樹木の表皮に、髭面の顔の様な物が浮かんでいる。
この写真を撮影した晩の事…。
深夜にコンビニに行った帰り道、タバコを吸いながら歩いていると、誰かに尾行されている気がする。
「がしゃんがしゃん」と云う金属音が付いて来るのだ。
そういえば昼間、城跡に行ったばかりだ。何か悪いモノでも連れて帰ったかもしれない。
自宅近所の田圃に差し掛かった時、田圃の向こうから稲を掻き分け何かが近付いて来た。
「がさがさ」と、稲が鳴るのだ。
田圃の反対側には梶原山の稜線が月明かりに照らし出されて見える。
稲を掻き分ける音が目前まで迫って来た。
何が現れるのかと鬼気迫る形相で身構えていると、稲の合間に鎧兜が現れた。
梶原山と云う名前の由来は、かつて源義経と対立した梶原景時が鎌倉幕府と訣別して京都に落ち延びる際に、鎌倉方に与した駿河の豪族の待ち伏せに遭い、この山に逃げ込み自刃したと云う謂われによる。
その梶原山の方角から、鎧兜が来るのだ。
自宅まで走って逃げた。
昼間の駿府公園での写真は、駿府城を居城としていた今川家に怨みを持ち、未だに浮かばれない景時の魂かもしれない。
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