百倍返しの報復

　明朝、地主自ら車で出かけ、犯人の要求通りにした。
　佐藤はと言うと、仕事を終え帰宅後、人通りを避ける為、深夜になってからアパートを出てA通りのパン屋の前にある公衆電話ボックスに向かってマイカーの激安軽四を走らせた。
　5分後、その前に横付けした。指紋が残らないよう手袋を嵌めて用心しながら車を降り、公衆電話ボックスの中に入った。電話帳入れの下を覗くと、果たしてお荷物取り出し券が貼ってあったので狂喜してそれを剥がして確認し、ポケットに入れた後、コインロッカーB駅前店に向かった。
　8分後、その前に横付けした。防犯カメラに映っても大丈夫なように覆面マスクを被り、また指紋が付かないように手袋を嵌める。周囲に誰もいないことを確認してから車を降りる。24時間営業だからいつでも入れる。中にも誰もいないことを確認してから入る。お荷物取り出し券に記してある扉番号のコインロッカーの前に立つ。お荷物取り出し券に記してあるQRコードを読み取り機に翳す。開錠したので扉を開ける。うわあ！思わず歓声を上げる。急いで持って来たボストンバッグに札束を詰めていく。大泥棒の気分だ。首尾よく終えて用心しながら店を出る。パトロール中のパトカーに見つかったらアウトだが、そんな運の悪い事にはならなかった。という訳で無事帰宅した。

　その後、佐藤は三千万円をどうしたかと言うと、正美と山分けした。と言うより水絵ちゃんと山分けしたと言った方が適切かもしれない。そして高橋家と共に隣町のマンションに引っ越した。だから水絵ちゃんは光男の消息を知らない儘、転校した。そこでは身なりも食生活も良くなったから貧乏人には見られず苛めにも遭わなかった。因みに佐藤は保浦家に光男の居場所を教えないでいた。端から教える積もりはなかった。完全犯罪を目論んだ非情なる殺人込みの計画的犯行を遂行する為だ。となると地主は遅まきながら警察に通報せざるを得なくなったが、光男は行方不明の儘、帰らぬ人となった。警察に通報後、三ヶ月目にして光男は或る登山家に白骨死体として発見され、光男の衣服が残っていたし、骨や毛髪のDNA鑑定の結果、光男に間違いないことが明らかになったのだ。
　佐藤はそのニュースを知って正美に水絵ちゃんにくれぐれも見せないようにと頼んでおいて今更ながら惨過ぎることをしたと思った。しかし、光男が生きて帰っては足が付いてしまうからああするより仕方なかった。光男にとっては餓死させられるより一思いに殺してもらった方がまだマシだったのだろうが・・・
　佐藤にとってはそんなことより金持ちから貧乏人に大金が渡ったことに重大な意義を感じた。貧乏人切り捨て金持ち優遇の政治に抗えたと思ったのだ。しかし、それは個人間のことに過ぎず全体的には何ら変わらないのだ。この事態にネオナチ団体の男とツーショットする或いはヒトラー選挙戦略現代選挙必勝のバイブルという著書に推薦文を寄せる、この二つの事実を知るだけでもネオナチデビルを支持する筈がないのにその親玉たるボンボンデビルにどれだけ騙されれば気が済むんだ！と昨今、佐藤は激怒している。それと言うのがボンボンデビルが自分の都合上、擁立するネオナチデビルの言う日本を美しい国にするとか強い国にするとか、ボンボンデビルのアベノミクスを継承し軍拡することを如実に物語る謳い文句にネット民が踊らされているのだ。何故ならボンボンデビルがSNSの書き込み欄に於いて電通ネトウヨ部隊にネオナチデビルのポジティブキャンペーンをやらせ、ネオナチデビルの敵方のネガティブキャンペーンをやらせ、他のネトウヨもユーチューブの動画に於いてそうしているからネット民が洗脳されてしまっているのだ。この有様を見て佐藤は日本のネット民に完全に失望した。日本のネット民はリテラシーやモラルが有るのが暁天の星で無いのが浜の真砂で後者がMASSとなってトレンドの流れに流されっぱなしになってしまうから、その流れが悪の導きでも悪に乗っかた儘、同じ過ちを繰り返そうとすると痛感した。そして議員たちもネットの動向に影響されるかもしれないからネオナチデビルが当選してしまったらと思うと、佐藤は日本の終焉の前夜にいるかのような気分になるのだ。