87人が本棚に入れています
本棚に追加
じつは……
「じ、じつは……、……してて」
「はい?」
私は鷹峯さんの瞳を見つめたまま、小さく呟く。
「に、妊娠……しました……」
「は……?」
気まずい沈黙。たった数秒のはずなのに、永遠のように長く感じる。
「妊娠……」
私の言葉を反芻。
「はぁ……まったく……」
続いて深い溜息。
私は身を縮ませる。
俯いた私を包み込んだのは、鷹峯さんの温もりだった。
「……妊娠していたならそう言ってください。まったく、貴女って人は……」
温かい。温かくて、安心して、また私の目から次々と涙がこぼれ落ちた。泣き顔を鷹峯さんのワイシャツの胸元に埋める。普段なら汚いって怒られるところだけど、鷹峯さんは黙って腕の力を強めてくれた。
「何か重い病気を私が見逃したのかと……心配していたんですよ?」
「うっ……ぐすっ……だ、だって……捨てられるかと……」
「何言ってるんですか。馬鹿ですか貴女は」
いつもの調子でぴしゃりと一刀両断される。でもその言葉は、『絶対捨てたりなんかしない』という鷹峯さんの気持ちを的確に表しているようで、私は思わず泣き笑いする。
「馬鹿って何ですか……人が真剣に悩んで……っ」
「知ってました? 私がキス出来るのって貴女だけなんですよ」
脈絡もなく、鷹峯さんは真面目な声でそう告げる。言葉の意図が分からず、私は難しい顔で鷹峯さんを見上げる。
「知ってますけど……それが何か」
「結婚しましょうか」
え?
最初のコメントを投稿しよう!