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「あ、痛いかも……痛い……いた……痛ぁーーーーーいっ!!!!」
最初はケロッとしてたんだけど、急速にお腹と腰が痛みだし、私は陣痛室のベッドの上で悲鳴を上げた。
初期の強烈な悪阻に始まり、頭痛、貧血、浮腫、悪阻が治まれば今度は異様な食欲、体重増加、後期には内臓が圧迫されて息苦しく、仰向けには寝られず、身体は重く、後期悪阻によりまたゲロゲロと吐く毎日。身体中あちこち痛いし、些細なことで泣いたり怒ったりメンタルもジェットコースター。
その数々を乗り越えて、最後の最後にこの仕打ち。
「酷いよ……あんまりだよ……生命のバグだよ出産なんて……痛ーーーーーたぁーーーーーっ!!!!」
人類のいにしえからの営みに喧嘩を売りながら痛い痛いと泣き言を言う私は、内診してくれた美怜先生にペシャリとお尻を叩かれた。初産婦に対してひどいスパルタぶり。
「まだ子宮口三センチ。陣痛もそこまで強くない。破水してるからこのまま入院はしてもらうけど、生まれるのは……そうねぇ、明日中には?」
「明日!?」
時計を見ると、今はまだ昼下がりの十四時。今日が終わるまであと十時間あるというのに、明日とはこれいかに。
「む、むりせんせぇ……お腹切って……」
「馬鹿言わないでよぉ、切った方が後々大変なんだからね? あ、柊真には連絡したの?」
涼しい顔で黒髪のショートカットをかき上げる美怜先生は、髪を振り乱して冷や汗をかいている私と違って憎たらしいほどに今日も綺麗。そういえば思い出したけどこの人、元々鷹峯さんのセフレだ……。
なんか、元セフレの女が妊娠するってどんな気分なんだろう? 美怜先生は、鷹峯さんのこと本当に好きじゃなかったのかな……。
私の視線に気付いたのか、美怜先生が私の方を見て苦笑する。
「馬鹿ね、今何か失礼なこと考えたでしょ。心配しなくても、あいつとは後腐れない関係だったから大丈夫。ほら、アイツ上手いじゃん? 身体の相性っていうか……魅力はそれだけ」
「あ、はは、は……ぃぃぃいたたたたたっ!!」
痛がる私を他所に、やっぱりキスしてくれる彼氏が良い。と、美怜先生は首を竦めた。
美怜先生は知らないだろうけど、鷹峯さんってキスもとっても上手いんですよ。これ、私しか知らないであろう情報なんですけどね。ちょっと優越感に浸っても良いですか?
「あああぁぁぁ痛いいいぃぃぃっ!!」
つまらないことで張り合おうとした私を諌めるように、陣痛の痛みが容赦なく襲う。
「んー、まだ収縮弱いな。時間も十分間隔……それでこんな痛がってちゃ持たないわよ? じゃ、私は外来あるからまたね〜」
「えっ!? 行っちゃうんですか!?」
さっさと部屋を出ていこうとしている美怜先生を、私はがしっと捕まえる。陣痛の痛みに耐えてる女の力なめんな。
「ええ、破水してるって言うから見に来ただけ。あとは生まれる直前まで助産師がサポートしてくれるから、またあとでね〜」
そんな私の馬鹿力なんて何のその。さっさと私の静止を振り切ると、ヒラヒラと手を振って美怜先生は部屋を出ていってしまった。
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