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結局鷹峯さんが来てくれたのは、日付が変わり朝日が登り、翌朝を迎えてからだった。
「ねぇっ、何でそんなに悠長なのっ!? 来る前に産まれちゃうかもしれないじゃん! 私と赤ちゃんに何かあるかもとか心配じゃないわけっ!?」
昼近くになってようやくやって来た鷹峯さんに、私はいきなりブチ切れてかかる。
「いやぁ〜ちょっと仕事が立て込んでまして。初産ですし、まだまだ産まれないのは美怜からも聞いて分かっていたので」
そういう問題なの!? ねぇ!? 医者だからって血も涙もないな!!
「だからって私一人で耐えてて怖いし不安だし誰かそばにいてほしっ……痛だぁぁぁぁっ!!!!」
もう本当に辛い。痛い。とにかく痛くて痛くて目に涙が滲む。
思わずベッド柵にしがみついて身体を丸めると、鷹峯さんが覆い被さるようにして私の尾てい骨の辺りとお腹にそっと手を当てる。
そこをぐっと力を込めて押さえてもらうと、不思議と少しだけ痛みが和らいだ。
「ああ、だいぶ張りが強くなってますねぇ。このままいけば日付が変わる前には産まれるんじゃないですか?」
「励ましたいのか絶望させたいのかどっちですか!?」
まだ昼前だぞ。これは拷問か。
鷹峯さんは笑いながら枕元に置いておいたタオルで私の額と目尻を拭い、ペットボトルの水をストローで飲ませてくれた。
「ほら、陣痛の合間はきちんと深呼吸して下さい。酸欠になります」
そんな言葉のやり取りも、長く続かなかった。
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