雛鳥の成長

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初めて恋をしたのは、中学の時だった。 それまでは恋なんて知らないただの子供だったのに、その人を見た瞬間から胸がドキドキして顔が熱くなった。 その人は数学の先生。 理系特有の神経質そうな眼鏡をかけていて、生徒と慣れ合うなんて微塵も考えてないようなその態度は、よく言えばクール、悪く言えば冷たくて無関心。だけど見た目がかっこいいためか、一部の女子生徒には人気があった。 けれど誰も寄せ付けない空気を纏っているためか、みんな影からこっそり憧れている感じだった。 そして僕もその一人。 女子でも寄せ付けないのにまさか男の僕なんて、冷ややかに軽蔑されて終わるような気がして、僕はなんのリアクションも起こせなかった。だから僕は初めて先生を見た一年の時から卒業するまで、その思いを胸に秘めたまま過ごして最後まで何もせず、何も言わず、一生徒としてそのまま中学を卒業した。 初めての恋が男の人だったことに最初は気付かず、けれどそれを恋だと認識してからは戸惑い悩んで、先生への思いを勘違いだと思い込もうとした。けれど先生への思いは一向に消えず、治まらない胸の痛みに開き直って先生への思いが恋であることを認めるまでにそう時間はかからなかった。認めたからといって、何をする訳では無いけれど、毎日先生を見つめて授業を聞き逃さないようにしたくらいだ。 お陰で数学の成績はいつも良かった。 そんな風に胸が痛いくらい大好きだったけど、それ以上は何もしなかった三年間を終え、高校生になっても先生のことは忘れられなかった。 だからといって中学まで行ったり、どこかで待ち伏せをしたりはしなかったけど。 ただ思っているだけ。 それだけで良かった。 だから、実は僕は本当に男の人が好きな人なのか、それとも先生だけ例外なのかは分からなかった。 だって、僕は先生以外を好きになったことがないから。そしてそれは、現在進行形だったから。 毎日24時間、先生のことが頭から離れなかった。 おかしいんじゃないかと思うくらい先生の事を思い、考え、だけど何も行動はしない。 こんなに頭から離れないのに、会いに行きたいとか姿が見たいとか、そういうことを思わないことに却って疑問に思う。 もしかしたら、本当は好きじゃない? ただ単に、恋している自分に恋してるだけ? そう思ったりもしたけれど、別に誰に迷惑をかけている訳でもないし、例えそれが恋でなくてもそのうち本当に恋をするかもしれないから、それはそれでいいと思うことにした。 だから僕は、そのまま心に先生を住まわせたままでいた。
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