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思ってもみない死亡宣告に、私は暫くの間屡叩いた。
「し、死んだ……? 私が?」
いざ自分の番となると、意外に涙は感情を表へ運ばないものである。
二年前に執り行われた祖父の葬式で、
息遣いを忘れるほど泣きじゃくった私なのにだ。
とにかく死の実感が湧いてこない。陰と陽とを内包したヴォイドの声が、
未だに鼓膜の手前で躓いているかのようだった。
「はい。重度の肺炎による急性呼吸不全。これが貴方の死因です」
思い出した。初めは自宅療養で経過観察することになったのだけれど、
症状の改善が全然見られなくて、挙句の果てに入院したんだっけ。
喘息持ちの私は37歳にして、死の淵に追い詰められていた。
「しかしながら、この悲劇的な結末は避けようがありました。
伊藤様本人はご承知のはずですよね?」
思い当たる節が嫌でも直感に触れるので、途端に私は口籠ってしまった。
「仰りたくないのなら、私から申し上げましょう」
ヴォイドが俯き加減で私の周囲をゆらりと回り歩く。
「医師から抗菌薬を勧められた貴方は、
副作用を異様に恐れ、か弱い免疫に縋り付いた。
異物が従来の生活をも失わせるのではないかと委縮して。
極度の優柔不断が死を招いたも同然です。
多少のリスクを冒してでも服用していれば、今頃助かっていたんですがねぇ」
悔恨の念が喉元まで這い上がり、きりきりと絞め上げる。
私はここでも息苦しさを受難しなければならないのか。
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