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長い人差し指が左右に振れ、決死の抗弁を静かに遮る。
「貴方は無防備に闘病する中でも、絶対的な安全性が保証され、
尚且つ効き目の高い治療法が近々開発されるだろう、と淡い期待を抱いていた。
言わば、都合の良い第三の選択肢を絶えず求めていたのでしょう。
しかし、理想と現実は総じて相反するものです。
存在しない物に将来を委ねても仕方がありません。
限られた現状で最善の決断を下し、そこへ心血を注ぐべきなのですよ」
この男は私の全てを把握しているようだ。
後戻りできない過ちを重々自覚しているが故、的を得た指摘が鬱陶しい。
「生前の話はもうやめてくれ! 私はこれからどうすればいい?
天国へ行けるのか? それとも地獄へ堕とされるのか?」
結論を急かす私に、シルクハットを被り直して失笑するヴォイド。
「せっかちな方だ。生き返るチャンスは差し上げますよ」
「本当か……!」
これが事実なら当然ものにしなければ。
休職した仕事はそれまで順調そのもので、遠からず出世も見込まれていた。
ただ、仕事一筋で駆け抜けてきた私は生涯独身に終わった。
人並みに恋愛や結婚をし、あわよくば自分の子どもを愛でたいという願望も、
未練がましく取り憑いている。
生き返らずにいる理由がまるで見当たらなかった。
「えぇ、簡単なゲームに勝っていただくだけでいいのです。
目の前に扉が見えるでしょう。
この中に現世への入口が紛れていますので、見事選び抜いてください」
大きく広げられた両手が、表面に傷一つない二つの扉を指し示す。
50%。今の私にとって、最も心理を揺れ動かされる値であった。
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