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「ごめんください──」
明美が声をあげた瞬間、「は、はい!」という声とともに、勢いよくドアが開いた。
思わず「キャ!」という女らしい声が出たが、すぐにそんな自分に嫌悪感を抱く。
「あぁ、ごめんなさい!」
広江は謝ると、明美の持っている箱を受け取ろうと手を伸ばした。いつもの癖だ。
明美もつられて、いつものように、箱を渡しそうになる。
その瞬間、二人の動きが同時に固まった。
互いの顔を見て、瞬きを繰り返す。
「それ、配達ですか? 注文した覚えがないんですけど……」
「あの……ケ、ケーキです。良かったら、一緒に」
「あ、ありがとうございます……。どうぞ、散らかっていますが」
明美は玄関に足を踏み込んだが、両手が塞がっている。そのため、明美の背中越しにあるドアを、広江が腕を伸ばして支える形になった。
狭い玄関で、体と体が触れそうになる。
おまけに今日に限って、なかなか靴が脱げない。
柄にもなく、ヒールなんて履いてきたものだから、なかなか脱げない。
これだから女らしいファッションは面倒くさいと、腹が立つ──。
「きゃ!」
焦りから、足を捻ってしまい、広江に倒れかかる。
明美は次第に顔が赤くなっていくのを感じていた。怒りと同時に恥ずかしさを感じたが、同時に、どこか懐かしいような気持ちが、その感情を鎮めていった。ほのかにピンク色に染まった顔で、広江を見つめる。
「あ、あの……まだですか?」
しかし情けない声とともに、ヒールはスポッと脱げた。
まったく、相変わらずイライラする。
せめて、今までの仕返しに、このまま動かないでいてやるんだから──。
そんな明美の気持ちも知らず、広江がうわずった声で、追い討ちをかけてくる。
「や、やっぱり似合いますね。そういう格好」
いい加減、本当に腹が立った。
あんたが似合いそうって言ったから、部屋のクローゼットの中は、散らかり放題だ──。
明美のワンピースの裾を、ドアから吹き込んだ風が、やさしく揺らす。
「……ありがとう」
広江の胸元で、明美は頬を赤く染め、はにかんだ。
〈終〉
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