今日もまた、小さな箱を持って

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 駐車場に車を停めた明美は、気怠そうに運転席のドアをあけ、アパートの階段の入り口を睨みつけた。  このアパートの階段は、運送屋の配達員として、何度も駆け足で上ったことがある。  配達先はいつも決まっている。このアパートの最上階である六階の、つきあたりにある部屋だ。  リフォームをされているが、古いアパートのためか、エレベーターがない。ツナギに身を包み、荷物を抱え、帽子から滴る汗が何度も視界を遮ってきた。  今日も手には小さめの箱を持っているが、また上るのかと思うと、嫌気がさしてくる。はっきり言って面倒くさい。  配達先の住人である広江も、男ではあるが、さすがに面倒だから配達を依頼するのだろう。  仕事にプライドを持ってはいるが、誰かの役に立つことと、人を怠けさせることは違う。明美に言わせてみれば、これは完全に後者だ。  それを思うと、無性に腹が立つ。  大きく吸い込んだ息は、ため息と一緒に口から吐き出された。  今日はいつもより時刻も遅い。疲弊した足で向かう六階までの道のりは長い。  明美は眉間に皺を寄せ、足の筋を軽く伸ばして、階段を上りはじめた。
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