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箱を抱え、一段、また一段と階段を上る。週に何度も足を運ぶと、配達員というよりは、使いっ走りのような気持ちになっていく。
それに、配達先が一軒家だろうと、アパートの最上階だろうと、配達員の給料は変わらない。そこがまた、腹立たしい。
「少しくらい俺らの気持ちも考えろよな」
担当地域が同じ同僚の、口を尖らせる様が頭に浮かぶ。
「王様にでもなった気分じゃねぇのか?」と、勝手な想像を働かせ、悪態をつく者も出てきた。
それはさすがに言い過ぎだ。そこまで言うと、女々しくて、カッコ悪い。プロとして恥ずかしくないのかと、腹が立つ──。
そんなことを思いながら、ふと二階の踊り場から外の景色を見ると、道路が渋滞を起こしているのが目に入った。
そういえば、トラックを路肩に停め、クラクションを鳴らされて、揉めたことがある。
あの時は、広江が六階から駆け下りてきた。サングラスをかけた大男の前に立ち、必死に仲裁するのを横目に、「誰のせいでこうなってると思ってるんだ?」と腹が立った。
同時に、明美は自身が女性扱いされたことについても腹を立てていた。自分が男であれば、きっと助けになど来なかっただろうと思っている。
男が相手だろうと、怯むことなどない。か弱い雰囲気の女を見ると、虫唾が走る。そんなもの、どうせ男の気を引くためだと思っている。
家族や友人から、お洒落やメイクのことを指摘されると、頭に来る。どうせみんな、周りの目を気にして、なんでもかんでも流行りに乗って、似合わない髪型やメイクをしているだけだ。
スッピンとツナギの方が、余程マシだとさえ思っている。
以前、女友達にツナギをサロペットと言われた日には、胸ぐらをつかみそうになった。
そんな男勝りな明美を守りきった広江は、足が小刻みに震えていた。揉めていた相手が帰って行くと、力なくその場に座り込んでしまった。
仕方ないから、六階まで肩を貸してやると言ったのに、その場で荷物を受け取り、ヨタヨタと歩いて行った。
情けない後ろ姿に、せっかくの階段で筋トレでもすればいいじゃないかと、怒りを通り越して呆れ顔で見送った。
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