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三階まで上ると、「ようやく半分かぁ」と心の中でつぶやいた。
男勝りな性格で入った運送業界。女子力など皆無な明美に、周りの男たちは同性のように接してくれる。体も鍛えられ、腕も足も太くなった。
それにしても、ここの配達は、決して楽ではない。
両手が塞がった状態は、体への負担も大きい。夜中に足がつって、目が覚めたときの気分は最悪だ。
それよりなにより、危ない。一度だけ、階段に躓いて、荷物を守った代わりに、顔を強打したことがある。
広江の懇願で、部屋で治療をさせてもらった。と言っても、鼻血を拭いて、鼻栓をさしただけだった。
あの時の会話が頭の中でよみがえる。今思い返しても、はらわたが煮え繰り返りそうだ。
「ツナギも大変ですよね。動きにくそう」
「いえ、私はワンピースやらスカートやら、そっちの方が動きにくいです」
「そうなんですか? でも、似合いそうですよね。ワンピースとか」
平然と言い放つ広江に、治療しておいてもらいながらも、言葉に棘が立った。
「嫌いなんですよ、女っぽい雰囲気」
「なんでですか?」
「肌に合わなくて」
広江は「ふーん」と言って少し考えると、閃いたような顔で口を開いた。
「失礼ですが、無理していませんか?」
「はぁ?」
思わず鼻栓が飛び出しそうになった明美は、それを険しい表情で、グリグリと鼻の穴に挿しなおした。
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