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思わず威嚇するような声を出した明美であったが、広江はそれを気にとめることもなく続けた。
「嫌いっていうより、そう思い込むことで、自分を納得させているだけじゃないですか?」
胸がズキンと痛んだ。
「……そんなわけないじゃない」
「なんていうか、違和感を感じるんですよね。無理して男勝りな感じを演じている気がします」
「……帰ります。お世話になりました」
明美が立ち上がると、広江は慌てて予備と称して、新品のティッシュを一箱差し出してきた。
明美の様子に戸惑ったのか、明らかに作り笑いをして言った。
「これ、先日配達してもらったものです」
冗談か本気か、どちらにしても腹が立った。
明美は鼻血のついた伝票にサインをもらい、鼻血のついた箱を置いて、部屋を後にした。
通路を階段まで歩くと、無我夢中で逃げるように階段を駆け下りた。
かつての交際相手から「似合わない」と言われた洋服たちは、クローゼットの中にまだ眠っている。
それが頭の中にチラチラと浮かび続け、それを振り解くように階段を駆け下りた。
怒りと恥ずかしさに顔を赤く染めていたが、その目には薄らと光るものがあった。
トラックまで手を横に振りながら走る姿は、道に迷った少女のようだった。
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