今日もまた、小さな箱を持って

4/10
前へ
/10ページ
次へ
 思わず威嚇するような声を出した明美であったが、広江はそれを気にとめることもなく続けた。 「嫌いっていうより、そう思い込むことで、自分を納得させているだけじゃないですか?」  胸がズキンと痛んだ。 「……そんなわけないじゃない」 「なんていうか、違和感を感じるんですよね。無理して男勝りな感じを演じている気がします」 「……帰ります。お世話になりました」    明美が立ち上がると、広江は慌てて予備と称して、新品のティッシュを一箱差し出してきた。  明美の様子に戸惑ったのか、明らかに作り笑いをして言った。 「これ、先日配達してもらったものです」  冗談か本気か、どちらにしても腹が立った。  明美は鼻血のついた伝票にサインをもらい、鼻血のついた箱を置いて、部屋を後にした。  通路を階段まで歩くと、無我夢中で逃げるように階段を駆け下りた。  かつての交際相手から「似合わない」と言われた洋服たちは、クローゼットの中にまだ眠っている。  それが頭の中にチラチラと浮かび続け、それを振り解くように階段を駆け下りた。  怒りと恥ずかしさに顔を赤く染めていたが、その目には薄らと光るものがあった。  トラックまで手を横に振りながら走る姿は、道に迷った少女のようだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加