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四階まで上ると、グッと足に力を込めた。
市営アパートや学校は、四階までが多い。ここから先が、本当の戦いになる。
荷物を持ち直し、重たい一歩を踏み出した。
配達の箱はいつも、今日の箱と同じように、軽くて小さな箱だった。それを毎日のように配達させられてきた。
広江はあの日から平謝りを続け、最後には「もういいですから!」と、明美の怒りを買った。
以来、配達をすると申しわけなさそうに「いつもすみません」と言うようになった。
それはズルい、と明美は腹を立てていた。プロとしての立場から言わせれば、客に気を遣わせるなんて、もってのほかだ。
六階に上る間に蓄積した怒りも一旦忘れ、思わず笑顔を向けてしまう。
何度も配達するうちに次第に砕けた会話もするようになった明美は、広江に冗談のつもりで言ったことがある。
「たまには自分で買い物に行ったらどうですか? いい運動になりますよ」
その日以来、配達に行くと、飲み物が用意されるようになった。
暑い夏の日にはスポーツドリンク、寒い冬の日は、わざわざホットのお茶を用意されるようになった。
「いつもありがとうございます」
「いえ、これも配達してもらったものですから」
冗談でも本気でも、笑えないくらいにくだらない。そのうえ、急いでいるのに、熱くて飲むのに時間がかかる。余計な時間を過ごす羽目になってしまう。
無駄に笑顔で会話をしなければならない。
おかげで寒い冬の日は、心の中まで温まってしまった。
自分らしくない心境に、我ながら腹が立っていた。
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