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五階の踊り場で、一旦息を整える。
いつもより足取りが重いのは、夜だからだ。疲れが溜まった夜の階段は、気が滅入る。
空は暗い。雲がかかっている。アパートの灯りが、いつもより綺麗に輝いているように見えた。
ふと、どこかの部屋の夕食の匂いが鼻をかすめた。
そう言えば、めずらしく広江が不在の日があった。あの時は、心底腹が立った。取りに来ればいいのに、再配達を依頼してきた。
今日と同じように、夕方が終わり、真っ暗な夜だった。
「あの、よかったらカレー食べていきませんか? 作り過ぎちゃって」
女子か、と内心思いつつ、奇しくも帰宅ついでに寄ったがために、食べる羽目になった。「帰りに持っていきます」なんて、電話をしたのが裏目に出た。
この時ばかりは、自身の男勝りな性格に腹が立った。断る理由がない。
嘘や言いわけをするのは、性には合わない。
仕方なくカレーを食べると、帰り際、広江はペットボトルのお茶を用意した。
「帰り道、喉が渇くでしょうから、どうぞ」
たしかに、カレーは辛かった。
「次は、甘口でお願いします」
笑顔でそんな冗談を言ってしまった自分に腹が立ち、真っ赤な顔で階段を駆け下りた。
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