今日もまた、小さな箱を持って

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 ようやくたどり着いたドアの前で、深呼吸をする。  聞き耳を立てているようでむずがゆいが、部屋の中から音がした。ドアの隙間から、明かりも見える。  仕方ない。まったく、なんで居るんだと、腹が立つ。  今日はもう時間も遅いというのに。  それに、今日ここに来るのは、二回目だ。  昼に配達に来たときは、いつもの笑顔で荷物を受け取ってもらったが、余計な一言を聞いてしまった。 「あ、これ、実家からだ。僕、今日誕生日なんですよ。これ、地元の名産のメロンです。大好物なんですよね」  いつもより箱が重いと思っていたら、中身がメロン。おかげで、いつも以上に腕と足が痛い。  それなのに、広江はさらに余計な一言を続けた。無理に平静を装っているのが見え透いて、イライラした。 「毎年余っちゃうんですよ。あの、よかったら……一緒に食べませんか?」  うなずくしかなかった。断ることが苦手な性格を見透かされているのだと、腹が立った。  それも、仕事終わりまで待っているなんて、急かされているような気がして、不快になった。  何時になってもかまわないなんて、恩着せがましくて、腹が立った。  それにしても、誕生日にメロンだけなんて──。別に悪くはないけれど、少しさみしい気持ちがしなくもない。  そんなことを思ってしまったおかげで、ここまで来るのにいつも以上に時間がかかってしまった。  それに、小さな箱を六階のつきあたりまで運ぶのは、プロの仕事だ。  仕事終わりに、また仕事をさせられた。  つくづく腹の立つ男だと、明美は眉間に皺をよせ、気怠そうな顔で肘を部屋のチャイムに押し当てた。
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