5人が本棚に入れています
本棚に追加
結婚式の華やかな雰囲気にも負けない、白のタキシードに身を包んだなおくんにどうしても見蕩れてしまう。
今まで見てきた中で、今日のなおくんが一番きらきらしている。誰よりも幸せそうなのが伝わってきて、まだ慣れない胸の奥がきゅっと縮こまる。
隣に並ぶ美羽さんもすごく綺麗で、お似合いなふたりだと感じてしまうことが寂しかった。
なおくんのお陰で、この一年を通して作り笑いをするのが上手くなった気がする。
作り物の笑顔を貼り付けたわたしを見つけて近寄ってきてくれたなおくんは、さっきまでとは打って変わってこの場に似つかわしくない困った顔をしている。
「よかった、来てくれないかと思ってた」
「……来ないわけないじゃん」
「だって、僕のこと避けてたでしょ」
「……ごめんね」
気づかれないように努力したつもりだったけれど、聡いなおくんはやっぱり避けられていることに気がついていたらしい。
素直に謝れば、なおくんはほっと息を吐き出して、いつもの柔和な笑みを浮かべた。なおくんとは対照的に、貼り付けた仮面にぴしりとヒビが入る。嗚呼、ボロが出る前に伝えておかなきゃ。
ごめんね、あのとき素直になれなくて。
逃げるように帰ってしまって。
あれから避けてしまって、ごめんなさい。
「おめでとう、なおくん」
「ありがとう、ちいちゃん」
たった一言、わたしからの精いっぱいの祝福。届いたかな、伝わったかな。
本当は今でもなおくんのおよめさんになりたいけれど、もうそれは叶わない願いだから。余計なことは何も言わずに、ただ祝福の言葉だけを贈るね。
最初のコメントを投稿しよう!