予選

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予選

 某小学校のグラウンド。  休日で、生徒の姿は見えない。  直径20メートルほどの円形のリングが特設してある。外周のロープはない。  リング上には、すでに15人ほどの選手がのぼっている。みんなそれぞれ、軽く体を動かしたりしながら試合開始を静かに待っている。  柔道や相撲、アマレスやボクシングなどスタイルはさまざまだ。いずれも気合いの入った顔つきの筋骨逞しい男たちばかりである。  その中には、破邪神拳の道着をまとった文彦の姿もあった。 「人気プロレスラーにボクシングの元世界王者。予選でこの顔触れか」  選手たちを見回して感心している。  ひときわ巨漢の力士が目に入り、 「魁王丸! すごい、現役の横綱まで……!」  思わず驚きの声をあげる。  だがすぐに余裕の笑みを浮かべ、 「だがしょせんは表の世界の選手だ。スポーツマンにすぎん」                                           リングのそばには、運営スタッフ用のパイプテントが設置されている。 〈大会運営委員会〉の腕章をつけたスタッフの中には、マイクを手にした司会役の姿もある。金髪オールバックでサングラスと黒スーツ姿だ。  ピピピ……  AM10時となり、折りたたみテーブルにおいてある時計のアラームが鳴る。  司会役はリングのほうにむかって、 「みなさん、お待たせしました! これより〈天下一闘技会〉第二回予選試合を行います!」  と景気よく宣言する。 「おっしゃ!」 「いっちょ、やったるか!」  選手たちは、めいめい緊張感を高めていく。 「ルールを御説明します。ダウンかギブアップ、あるいはリングの外へ落ちたら即失格の時間無制限バトルロイヤル方式です。最後まで生き残った一人が勝者となります」  審判もリングに駆けのぼり、無言でスタンバイする。  緊迫した空気。 「それではスタート!」  司会役の合図とともに、激闘の幕が切って落とされる。                                           バーン!  ビュンビュン!  バキッ!                                           一流ぞろいだけあってみなプライドが高く、一人に他勢の戦況にはあまりならない。ほとんどの選手が一対一のスタイルで闘っている。                                           ドタンッ!  ボクッ!  バババンッ!                                           審判はせわしなくリング内を駆け回っている。  関節技を極められている選手のタップを確認したり、ダウンして動けなくなった選手を引きずってリング外へ投げ捨てたり。                                           魁王丸はさすがに圧倒的な強さだ。  張り倒してダウンさせ、投げ飛ばして踏みつぶす。  完全に無双している。  文彦は試合開始早々、その魁王丸の背後にぴったりとくっついていた。  完璧に動きをシンクロさせて死角をつくっているため、宿主の魁王丸は背後に寄生されていることにけっして気づかない。そのため他の選手が文彦を狙おうと近づいても、魁王丸は自分にむかってきたと勘違いして攻撃してしまうのだ。 「破邪小判頂(はじゃこばんいただき)!」  常に安全圏を確保する、これがバトルロイヤル形式で闘うときの破邪神拳の極意だった。                                           試合開始からおよそ30分。選手の数はどんどんへっていき、ついには残すところ三選手だけとなる。  魁王丸と人気プロレスラー高山弘という巨漢同士の一騎打ちだ。  先に魁王丸が突進して仕掛け、  ドバンッ!  と正面から組み合う。  そして、  ドドドーッッ!  ともろ差しで怒涛の押し。  さしもの高山もなすすべなく押し込まれていく。  が、背後に張りついていた文彦が、押し出しで勝利目前の魁王丸の背中に体当たりして、二選手をまとめてリング外へ突き落とす。 「よし!」  文彦は右腕を高々とあげて勝利宣言する。
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