第1話 春告鳥

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老舗和菓子屋『柳屋(やなぎや)』はお寺の多い寺町の一角に店を構える歴史ある和菓子屋だ。 竹林やお寺に囲まれた中に店があって、早朝と夕暮れ時には鐘の響く音が聴こえてくる。 そんな風情ある街並みで生まれ育った私、柳屋(やなぎや)羽花(うか)はぼんやりしているとか、のんびりしているとか言われている。 たぶん、この町の時間の流れ方がゆっくりなせいだと思う。 今日もいつもと同じ朝がやってきた。 お店で働く私は父をはじめとする職人さん達が作った上生菓子の見本品を飾っていく。 上生菓子は高級品でとても繊細な和菓子。 おいしく食べれる日数も短い。 上生菓子には季節の風物詩を表現したデザインがあり、味だけでなく見た目にも美しい。 そっと見本品の一つである(うぐいす)を手のひらの上にのせる。 三月の初旬、桃の節句に合わせたお菓子や蝶や菜の花の練りきりが並ぶ中、二月に発売された鶯はそろそろおしまいになる。 そして、新しく並ぶのは桜、山吹などの鮮やかな色のお菓子達。 花見の時期は桜餅に三色団子、甘しょっぱいみたらし団子に緑が鮮やかなヨモギ団子。 ヨモギ団子にはどっしりとした特製のあんこがのっている。
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