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出会い〜どん底からの光〜
友人の一言で、私はどん底に落とされた。
「慎吾くんが別の女の人と一緒にいるのを見たの。黙ってるのは良くないと思った」
「私はまだ相手が誰かもわからないのに、言うのは早いって言ったんだけど……」
美波がはっきり言った隣で、弥生はおどおどしながら美波をなだめている。
「だって友達と腕組むなんておかしくない?」
「そういう人だっているよ、きっと」
人の価値観とは不思議なもの。伝えるべきと思う人もいれば、言わない方がいいという人もいる。どちらもそれぞれの考えと想いで言っているのだが、受け取る側にも価値観がある。
私は隠されるより、言ってもらった方が有難かった。信じられない……そう思いつつ、どこかで薄々感じていたのかもしれない。
最近デートもしてない。約束をしてもドタキャン続き。学校で会って話す以外の連絡なんて、友達より少なかった。
「ありがとう、二人とも。そろそろ私も慎吾とのことを考えなきゃって思ってたから……でもいざ聞くと、やっぱりショックが大きいな……」
もっとラブラブな頃だったら、どうしてそんなことを言うのって取り乱したかもしれない。そうならなかったのは、私の中で諦めているんだろうと思う。
「二葉……! 何があっても私たちは二葉の味方だからね! いつでも相談してね!」
「うん、ありがとう」
味方のはずなのにはどうして信じきれないのかな……私の心はだいぶ荒んでいるみたい。
* * * *
二葉は慎吾の部屋が見える公園のベンチに座って、なんの変化もない扉をじっと見つめていた。
よくある白い二階建てのアパート。最近は部屋に行くこともなくなっていた。
本当ならば今日はデートの約束をしていたが、慎吾から行けないと断られたのだ。
朝からここに座って早三時間。
私ってば一体何をしているんだろ……これじゃあただのストーカーじゃない。彼を見張ってどうするつもり? 現場を押さえて怒るの? それとも納得して別れる?
その時彼の部屋のドアが開き、中から慎吾が出てくる。別にいつもと変わらない。
歩いて駅に向かう慎吾の後ろから、二葉は十分な距離をとりながらついていく。
何事もないように……そう思っていたが、駅前で彼が誰かに手を振るのを見て愕然とした。
慎吾の視線の先にいたのは、スラリとした体型のキレイな女性だった。まさに慎吾の好みのタイプ……作り物の私とは違って、自然な身のこなし。二葉は肩を落とす。
二人は楽しそうに腕を組むと、そのまま繁華街へ向かう。この先はホテル街になる。やっぱりそうなの?
二葉はカバンからスマホを取り出すと、カメラを起動する。
心拍数が上がり、冷や汗が止まらない。そして二葉は息が出来なくなった。
案の定二人はホテル街に入って行く。そしてリゾート風のホテルの前で何やら話し込むと、中へ消えていった。
二葉は震える手の中で、写真を確認する。しっかり撮れていた。
二葉は大きく深呼吸をすると、カバンの中にスマホをしまって走り出した。
もう終わり。でもやっぱり悲しくて仕方がない。
* * * *
家に帰ると、二葉は服を脱いで着替えた。
慎吾にバレないようにと姉に借りた服を洗濯機にほうりこむと、今まで我慢してきた可愛いフリルのついたブラウスをタンスから取り出し、ロングスカートに合わせる。
買ったのに使えなかった花柄のリュックサックに、書き溜めた写経と納経帳を入れると、家を飛び出した。
駅まで走り、電車に乗り込む。椅子に座るとカバンからスマホを取り出した。
『癒しの旅に出ます。帰る時に連絡します。』
母親にそうメールを打つと、二葉はそっと目を閉じた。
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