史上最高罰則

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 あの日僕は最愛の彼女とデートをしていた。商業施設の入り口の所で人々が集まって行列を作っていた。でも、これは特別な事では無い。この商業施設は人気も有るし、そしてイベントをしているのでこのくらいの行列は普通に有る物だった。僕達もそんな一団に混ざって、暑い夏の日差しの中で粛々と順番が訪れるのを待っていた。  もう僕達は付き合い始めてから一年が過ぎようとしていた。しかし、まだ一年とも言える。僕はこれからもっと彼女との時間をずーっと何十年も続けたい。そう心に誓って、そこにどんな障害が有ろうと関係ないと思っていた。  それにしても今日はまたアホみたいに暑くて、こんなところで素直に並んでいると熱中症にでもなって倒れたって仕方が無い。 「暑いよね」  横に居る彼女もそんな言葉をもう何度も口にしている。行列を待っているだけだと退屈する事も有って更に暑く思える。 「飲み物でも買ってこようか?」  近くにファーストフードの店が有るのを確認して僕が彼女に聞くと、そんな彼女からは笑顔が返った。 「奢りなら!」  ちょっとお茶目そうに話していた。それはもちろん僕から言い出したのだからお金を請求する筈も無い。そんな事だって彼女は解っているのだろうに、冗談にする為にそんな事を言っていたんだ。  そうして僕は行列の番を彼女に頼んで、ファーストフードのお店の方へ小走りで向かった。別に急がなくても良いんだけど、なんだか彼女に冷たい飲み物を直ぐに届けたかった気分でも有ったから。  ファーストフードの店ではクーラーがキーンと効いていたけれど、並んでいる客の量はそこそこ居る。外の行列から物資を求めている僕みたいな人が多いのだろう。それでも回転は良いから順番は商業施設のそれよりも淡々と進んだ。  僕のコーラと彼女の好きなレモンティーを注文してそれを受け取ると、僕は彼女の方へと両手に冷たい飲み物を持って向かう。こんなものでも彼女なら喜んでくれるだろう。将来を約束する石の付いた指輪でなくとも喜んでくれるのは安上がりで有り難いが、もう僕はそれも用意をしている。  タッタと人の列を進むと彼女がその列から顔を出して手を挙げているのが見える。もちろんそんな時は笑顔だ。その笑顔だけで僕は幸せになれるから、これからの人生にそんな笑顔と一緒に居たい。  しかし、その時に僕は自分の視界に有る違和感に気が付いた。最愛の人の笑顔のその向こうに普通では有り得ない風景が有った。  瞬時にその変調に僕は気付けなかった。今日という日も穏やかにそして何事も無く終わるのだろうと、実感はしていなくても思っていた筈だから、そんな事は有り得ないと脳が理解して編集が間に合わなかったのだろう。  突如遠くの方から悲鳴が聞こえ始めた時になって、やっと僕も異様な風景に気が付いた。  それは彼女の向こうに少し続いている行列に車が走ってくる。並んでいる人を跳ね飛ばした今でも、普通の道路を走っているかのように彼女の方へ近付いていた。  危険と言う言葉が思い浮かんだのはその時だった。彼女はまだ気が付いて無くて、僕が両手の紙コップを投げ捨て彼女の元へ駆け出した時に、やっと彼女も悲鳴と僕の姿にただ事では無い事に気が付いた様子で車の方に振り返っていた。  間に合う時間なんて無かった。こう言う瞬間にはスローモーションになると言うが、僕には危険が無かったからなのか一瞬の事だった。  僕は手を伸ばしたけれど、それは彼女まで届く事は無く、次の瞬間には彼女は車に轢かれて、ボンネットに乗り上げてそこで車は止まった。
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