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 話が進むにつれて私の話は混迷を極め、それと比例するように中臣氏の眉間に皺が寄り、挙げ句に首も傾き出したところで私は匙を投げた。  あるいは、先に中臣氏の頭上で疑問符がタップダンスを踏みはじめたことを感じ取ったがために、なんとか盛り返そうとして余計に話の混迷を極めさせてしまったのかもしれないが、ともかく口頭での伝達に限界を感じた私は鞄から手記を取り出し手渡した。 「これは」 「僕の手記です。どうも口下手なせいか説明しづらいので、ひとまずこれを読んでいただけませんか」  用意がいいですね、と笑う中臣氏の言葉に思わず耳が赤くなるのを感じた。悪意がないことは了承しているが、まるで読んでもらうことを想定して持ってきたように受け取られるのは本意ではなかった。  最近書きはじめて、いつでも書けるように持ち歩いていて、今朝も少し書いていて、と言い訳を並べているうちに中臣氏は手早く手記を読み進めており、途中途中で失笑を抑えられない様子であった。 「はぁ、なるほどなるほど」  公開処刑、というよりも公開生殺しに近く、いっそ殺せと永劫にも感じる十分間、羞恥という名の拷問に耐えると、中臣氏が「なかなか面白い手記ですね」と添えてこちらに手記を返してくれた。私は即座にそれを鞄の中へと隠滅した。 「私が登場するくだりは予想外でした」 「すみません、つまらないものを……」 「いやいや、面白かったですって」  ただそうですね、と中臣氏。 「手記を書いてみては、という自分の──ああ、もちろん夢の中の自分ですが──そのアイデア自体には、ええ、賛成できます。でももう少し付け加えたいことがあるとすればですね、」  私の悩みを解決してくれそうな、ちょうどいい単語がある。そんなことを言う。 「つまり、明晰夢を見れるようになればいいんじゃないですか」 「明晰夢……」 「ご存知ないですか」 「いえ、ぼんやりと知ってます。確か、夢であることを夢の中で自覚している夢というような」 「そうですね、その認識であっていると思います」 「それが、僕の悩みの解決になると」 「だって、夢と実際にあった過去とが混同してしまうんですよね」 「ええ」 「だったら、夢の中で夢と分かってしまえばいいんです。あなたの悩みはどうも、ように感じます。明晰夢であればこれは夢だと認識しているわけですから、現実だと認識している過去との記憶の棲み分けも可能でしょう」 「はぁ」
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