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 視点を変えればいいだけですよ、と軽やかに言われてしまってはうっかり騙されそうになってしまうが、それに関しては反証がこちらにあった。 「いや、確かに面白い発想ではありますが、それは違うと思いますよ」 「違いますか」 「ええ、眠りに落ちると脳内でもう一つの宇宙が誕生し、そこに存在する自分の記憶を夢と呼称しているのであれば、いくつか疑問が生じます。その最たるものとしては、不自然な断片とその連続性とでもいいましょうか」 「ほう」 「つまり、夢の移り変わりというやつです」  夢を眠りの間にいくつ見るかは、夜に依る。そして場面転換を繰り返し、それらのシーンを当事者として渡り歩く。そんな夜も、あるにはある。  この時、夢の内容は断絶しているようでいて連続しており、個々の夢として成立しているケースの夢がある一方で、複雑に絡み合うケースの夢もあったりする。空飛ぶ猫を撃ち落とそうとして、その罪で公安に路地裏まで追いかけられる。場面はいきなり転換し、音楽室で公安に追い詰められた私は、絵画の中から飛び出してきた英雄に窮地を救われる。  このように奇天烈な展開が滑らかな文脈のもとで手を変え品を変え登場する場合もあり、いくら不可思議な物理法則を許容する宇宙が誕生していたとしても、さすがにこうした無節操な連結まで生じさせ得るとは考えにくい。他方で宇宙が複数展開しているにしてはそれらの間に隔たりがなく、また自分という存在があまりにも共通しすぎている。  対象が認識に従うとは言うものの、世界を解釈のしやすいようにすることが自我だか自意識だかの役割だとしても、どうにもそこだけにこの齟齬の因果を押し付けることは難しいだろうという思いがむくむく立ち上がる。  実際、明晰夢ではそうした夢の移り変わりがどういう扱いになるのか非常に気になるところでもある。 見始めてからまだ歴が浅いからということもあるだろうが、未だに私は移り変わる明晰夢というものを見たことがない。 「夢はいつの間にか始まっていることが多々あって、その始点を逆に辿ることはとても難しい。それはなんだか、自分が物心ついてからの最古の記憶について考えることに似ていると思います。しかし夢の移り変わる瞬間というものは大体の見当がつくのが一般的でありまして、もちろん細部こそ鮮明ではないものの、それこそナンセンスな宇宙際の梯子酒をどうやって説明できましょうか」
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