社長はサンタクロース

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 鬼丸絵美里は事務室のソファーに深く腰掛け、専務と二人でウイスキーグラスを傾けていた。 「うまくいきましたかね」と専務。  専務は五十過ぎに経理課長補佐代理という役職のまま人員削減でリストラされて、途方に暮れていたところを絵美里に拾われた男である。以来、絵美里と会社のために私心を捨てて働いている。痩せぎすで黒縁メガネの奥の目は細いけれど、人を見る目は確かだった。 「電話がかかってこんってことはそうなんやろな。今ごろ家族四人でクリスマスイブを楽しんどるところやろ」  専務は何度も首を縦に振っている。 「結局、雅也の奥さんは彼から受け取った離婚届に判を押さなかった、ということですか?」 「そや。雅也が家を飛び出してから破り捨てたらしいわ。あいつの借金もきちんと返済されておるし、家族に迷惑がかかることはあらへん。家もしかり。奥さんが働いてきっちりローンを返済しとるらしい」 「さすが社長。そこまでお調べになってたんですね」 「当たり前や。うちのバックには優秀な情報屋がいるからな。ま、そこらへんは抜かりないわ。それに最近のあいつの様子を見る限りでは大丈夫って判断したわけや」 「しかし社長がいきなりサンタクロースの衣装とプレゼントを用意しろ、とおっしゃったのには驚きましたね」 「おまえが雅也の子どもにリークしたんやないんかい! 『エミおばさんに相談したらいい』とか何とか。そうでなければわざわざこんな手紙書くわけないやろ? うちはサンタクロースやないっちゅうねん」  真っ赤な革ジャンを羽織った絵美里は青い封筒を専務の前に差し出した。 「ちょっと拝見」  専務はテーブルに置かれた封筒を手に取り、中身を取り出した。  そしてにやりと笑い、「下手くそな絵ですね」と言った。 「そやな」絵美里は深い琥珀色の液体を喉に流し込む。「でも心がこもっとる」  封筒の中には、ミミズが這ったような字の手紙と家族四人が手をつないでいる絵が入っていた。 『エミおばさんへ  ママがパパにあいたいっていいました。  ぼくのいもうともまいにちあいたがってます。  ぼくもあいたいです。  まいにちサンタクロースにおねがいしてます。  どうしたらいいですか              ひでのり』 (了)
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