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実際、それから間もなく車のタイヤが止まった。そばに一軒の家が建っている。
洋風の二階建て住宅で、庭には芝生が敷かれていた。天気の良い日は、そこでバーベキューをしたんだろうな、と雅也は思った。その瞬間、彼の中に郷愁に近い思いが沸き起こった。彼は頭を振り、気持ちを切り替えて、車内から用心深く周囲の様子を窺うことにした。
雅也の狙い通り、門扉前の路地から電柱一つ離れた場所に、一台の赤いセダンが電灯の下で駐車していた。目を凝らすと、セダンの車内に二つの人影がうごめいているようである。こちらには気づいていないのか、ドアが開くような気配はない。だがワゴンを門扉に接近させた途端、ゴロツキ共が飛び出して向かってくるのは間違いない、と雅也は踏んでいた。それでしばらく静かなにらみ合いが続いた。
そのときルームミラーに何かが映った。
どうやら二人組の警官のようである。
近所のパトロールかもしれないが、違法駐車と勘違いされても困るし、さりとて夜逃げですと正直に打ち明けることもできないので、一旦離れて出直そうかと思案していると、頭の中にいいアイデアが浮かんできた。
雅也は絵美里から預かっている大きな荷物袋を手に取り、ドアから飛び出した。
「メリークリスマス! お巡りさん、こんな時間までお疲れさまです」
雅也が声を張り上げると、口から白い息がむらむらと吐き出された。
警官二人は最初目を丸くしたが、雅也の衣装を見てゆっくりと彼に近づいてきた。
「こんばんはサンタさん。こんなところで何をしているのかな?」
そう言ったのは佐藤巡査部長。妻と妻の母親の三人暮らしをしている五十歳の警官だった。一人息子は都会の三流私立大学に通っている。彼女とのクリスマスデートを優先して帰省する気がさらさらない息子に毎月欠かさず仕送りをしている働き者だった。
「いやだなあ。サンタクロースは良い子にプレゼントを届けるのが仕事ですよ」
雅也はそう言っておどけてみせた。
「その袋の中を見せてください」
懐中電灯の光を雅也に向けたまま、鈴木巡査が険しい顔をしながら言った。
巡査は今日の夜勤のために泣く泣く彼女とのデートをキャンセルする羽目になっていたので、少しばかり不機嫌だった。
巡査が用心深く袋の中を覗き込むと、野球盤ゲームが入った箱と魔法少女の着せ替えセットが確認された。巡査は黙って巡査長に目配せする。それから咳払いを一つした。
「ここは駐車禁止ですよ」
雅也はサンタの帽子を取り、深く頭を下げて言った。「すみません。プレゼントをお届けしたらすぐに帰りますんで」
巡査は納得していない様子だったが、巡査部長はなだめるように口を開いた。
「鈴木君。サンタクロースはね、良い子にしか見えないんだよ。僕たちみたいな大人には縁のない存在なんだ。さあ風邪を引かないうちに早くパトロールを終わらせようじゃないか」
巡査部長は雅也の肩をポンポンと叩き、立ち去ろうとした。
「もう佐藤さんったら。ちょっと待ってくださいよ」
巡査は置いてきぼりにされないようにそそくさとその場を離れた。
雅也は二人が向こうに行くまで頭を下げたまま見送っていた。
そしてワゴンに乗り込もうとしたとき、赤いセダンがすれ違った。運転席には人相の悪い若者が見えたが、気づかない振りをした。
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