社長はサンタクロース

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 絵美里から聞いた住所は雅也が以前住んでいた家だった。彼は重苦しい思いでハンドルを握っていた。すでに他人の手に渡っているであろう在りし日の我が家に足を運ぶのは辛かった。近づくにつれて、絵美里に対する怒りがこみ上げてくる。あの絵美里が知らないはずはない。会社に帰ったら文句の一つでも言ってやろう、そう決めた。  懐かしい家の前にワゴンを停めたとき、雅也はルームミラーを見ながら必死で作り笑いをしていた。小声で何回も「メリークリスマス」と発声練習もした。そうしないと不機嫌さが全身から滲み出てくるような気がしたのだ。以前絵美里から説教された言葉が波のように寄せては返す。 『仕事に私情を挟むな』  今がまさにその正念場だった。  雅也は大きく深呼吸して車から降りた。プレゼントが入った大きな袋を持って。  その姿は本物のサンタクロースとは似ても似つかぬスタイル抜群のサンタクロースだった。  玄関の呼び鈴を押した。  玄関ポーチの灯りが点く。  ドア越しにドタドタと足音が聞こえてきた。  この家の子供たちかな、と思った。  雅也は一度だけ咳払いをする。  ドアが開いた。  小さな人影が二つ飛び出してきた。 「メリークリスマース!」  雅也はバリトン調の声を出した。 「パパー!」といきなり小さな影が胸に飛び込んできた。  間髪入れず、それより小さな人影が足にまとわりついてきた。 「わー、ほんもののパパだー!」  雅也は目を白黒させた。思わず、袋を地面に落としてしまう。 「あなた、お帰りなさい」  懐かしい声が玄関のたたきから聞こえてきた。  そうか。これは夢だ、幻だ……。雅也は心の中で何度も呟いた。  
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