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戦場に咲く花
イーリスは馬に乗り、一番近い戦場へと赴いた。
そこは荒れ狂う怒号が飛び交い、敵を殺すことしか考えない愚かな生き物の群れがあるだけだった。
その下で失われる多くの命を気に掛けることもない。
血を血で洗い、雄叫びが身を強張らせ、金属音が響く、戦場。
ただただ、愚かで野蛮な行為が繰り広げられる、戦場。
イーリスの頭の中で鈍く擦れる音が響く。
力いっぱい噛み合った歯が僅かにズレたのだ。
「…………絶対に許さない」
目の前で燃え盛る家々を、同じ色をした瞳が睨みつけている。
乙女が剣の柄をギッと握り締めて切っ先を地面に突き刺すと、大蛇の如く亀裂が四方に走り、轟音が幾つかの兵を飲み込んだ。
壁と屋根が折り重なって燃え落ちる様を背景に、黄金の剣が輝きを増した。炎を抱いてキラキラと、ではない。
それ自身が強烈な光を放っていた。
乙女の怒りに呼応し、地上に降りた太陽はもう一度地面に大蛇を走らせた。
轟音と共に地を駆ける大蛇。その牙が戦士の一人を捉え、そのまま胃の中へ流し込んだ。
突然の地割れに驚く戦士たちの衆目を集めたイーリスは黄金の剣を掲げて力強く叫んだ。
「我が名はイーリス!
我に勝ちし者のみが、夫となることを認めよう!
その自信があるのなら、来い!」
それを聞いた愚かな生き物の群れは我先にと挙った。
だが、屈強な戦士たちも、黄金の剣の前では一切歯が立たなかった。
イーリスが一振りすると、地は裂け空は震えた。
己の欲望のため無意味な殺し合いをした戦士たちに怒りを覚えたイーリスは、がむしゃらに薙ぎ払った。
当然、戦士たちはボロ布のように引き裂かれ、無残な死を遂げた。
ある者は五体が一体に、ある者は半身に、ある者は大蛇の餌食に。
イーリスの前に立つ者は人の形を保つことなどできなかった。
「私の怒りは神の導き。贖罪の機会は無い」
最後の一人になるまで、イーリスは大地を割り雲を裂き岩を粉にした。
そして最後の一人は自ら地の底へ落ちていった。
静まり返った戦場を眺め、イーリスは馬に乗った。
全ての戦場で同じことをするために。
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