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聖剣に選ばれし乙女
神の化身となったイーリスは、各地の戦場で暴れまわった。
黄金の剣に敵う者が居るはずもなく。
何百、何千の戦士が体を引き裂かれ血肉を捧げるに至った。
累々と横たわる死体は大地に潤いを与え、草花が立派に成長する糧となった。
黄金の剣が岩を割り山を削り、遥か彼方まで地平線が見える肥沃な大地となった。
いつしか戦争は終結した。
戦う者は皆全て大地に帰ったのだ。
これに涙したのはイーリスだった。
剣を拾った森の泉の傍らに跪き、神に祈り、自らの過ちの許しを請うた。
その時、泉が太陽に照らされ光り輝いた。
その光の中から現れた者が居る。
イーリスの前に降臨したのは太陽の神ローローであった。
黄金に輝き、その姿をはっきりと見ることはできなかったが、姿見えずとも、言葉にせずとも神であることは明白であった。
ローローは言った。
「その剣はバルトゴルト。清き心を持つ者のみが振るうことができると言われる。
しかし汚れた心を持てば、地上を地獄と変える力を持つ。
乙女イーリスよ。お前が清き心を失っていないか、確かめようではないか」
その言葉を聞いたイーリスの頬を大粒の涙が伝った。
「私は、争いを鎮めるために、たくさんの人を殺してしまった。
罪深い私は……汚れた心の私は……この剣を持つ資格など……
……ありません」
啜り泣きながら言うと、イーリスは剣を泉に投げ捨てた。
激しい水音と共に剣は沈んでいった。
イーリス自身も入水しようと泉に足を入れた。
「この許されざる罪は、私自身も地に帰ることで償います」
意を決した乙女は泉の底へ深く沈んでいく。
目を瞑り、奈落のように暗い泉の底へと沈むイーリス。
その途中、眩い光が瞼を貫いた。
イーリスが驚いて目を開けると、水底から雷光のような輝きが見えた。
剣が光っている。
煌めく聖剣がゆっくり動いて、沈みゆくイーリスの手元へ戻ってきた。
イーリスがそれを掴むと、剣はその力で水面まで浮かび上がった。
死するはずだったイーリスは聖剣によって再び水と空の境界を超えた。
神は言う。
「剣はあなたを選んだようだ。
その剣は使い手を自分で決める。
誠実なる乙女よ。
それはあなたにこそ相応しい。
そして剣は言っている。
あなたはここで死ぬべきではないと」
剣はますます輝き、薄暗い森を黄金色の光で満たした。
剣は乙女の心を認めたのだ。
イーリスの心の清らかさに感銘を受けたローローは、乙女を神の使徒とした。
イーリスは神の使徒として、各地に教えを説いて回るのだった。
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