神の使徒

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神の使徒

 イーリスは各地でローローの教えを説いた。  イーリスが神の教えを説いた土地は暖かく豊かになり、作物が良く育つと評判だった。  葡萄や小麦の、豊かな実りが次々と生まれ、イーリスはいつしか豊穣の聖女と謳われるようになった。  聖女と神の力で、飢える者は誰一人としておらず、争いも起きず、平和な世となった。  しかしこれを快く思わない者がいた。  太陽の神ローローと対を成す、嵐の神レームである。  レームはローローに言った。 「民は大地を潤す雨の恵みのことを忘れている。一年中暖かいだけではだめなのだ。豊かな実りのためには静かな雨も必要なのだ」  ローローは言う。 「ならばお前も乙女に剣を捧げるのだ」 「貴様の使徒にやる剣はない」  何故、ローローの下僕に頭を垂れる必要があろうか。  何故、この大切な聖剣を渡さねばならないのか。  何故、太陽の神と対を成す嵐の神が蔑ろにされねばならないのか。  嵐の神レームは激しく怒り、雨を降らせた。  ひと月の間、ローローを押しのけてひたすらに雨を降らせた。  雷鳴が轟き、激しい雨音が消えることはなかった。  その豪雨は川となり湖となり、大地の何もかもを沈め、押し流した。  家も木も岩も、そしてイーリスの想い人すら流してしまったのだ。  それを知ったイーリスは雨よりも激しく泣いた。  そしてレームに復讐を誓った。  降りしきる雨の中、その雨音よりも遥かに大きくイーリスは叫んだ。 「愚かなる嵐の神よ!  其方が無差別に奪った命の代償をこの私が払わせてやる!  私の前に姿を現せ!」  レームはその挑発に乗り、イーリスの前に降り立った。  怒りのイーリスは問答無用にレームの真上から剣を降ろした。  だがイーリスの聖剣の力をもってしてもレームを倒すことはできなかった。 「聖女と呼ばれていようと所詮は小娘。いかに聖剣の力があろうとも、神に敵う力を持つはずはない!」  レームは波の聖剣ゼーグムートでイーリスの聖剣に対抗した。  揺らめく刀身から放たれる五月雨の如き猛攻がイーリスを襲った。  しかし嵐の神の力といえども、聖剣を持つ乙女を絶命させるには程遠く、多少の傷を付けるだけだった。 「たとえ神であっても……その傲慢さが招いた人々の死を、その罪を、許すわけにはいかない!」  イーリスの額から流れる血が黄金の聖剣バルトゴルトに落ちた瞬間、聖剣は一層輝きを増した。  イーリスの怒りが聖剣に力を与えたのだ。
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