「つらい仕事」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.10

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近年、テクノロジーの発展で、世の中のほとんどの労働は、機械化された。 工場ではロボットが、便利なプロダクトをくみたてる。 それら商品は、自動運転のドローンが運ぶ。 サービス業もだいたいは、ロボットにいれかわった。 もちろん家の中でも、AIやロボットはかかせない。料理から掃除からなにから、すべて自動でやってくれる。 そうして人間は、それほどせっせと働かなくてもよくなった。まったく働かないというわけではないが、基本的なインフラは整備され、必要な労働はロボットがかわりにやってくれる。そのロボットの生産や修理も、ロボット自身でおこなう。 むろん、そうした社会が消費するエネルギーも、永続できるシステムが構築されている。 せいぜい人間のやる仕事は、そのロボットやらのスイッチを入れたり切ったりする程度。 生きるのに必要なものは、ほとんど無料でそろっている。よって生活を維持するために、つらい仕事をするという人はいない。 あくせく働かずとも暮らせるようになって間もない頃、人びとは喜んでいた。これといって、何もしなくていい生活。のんびりと、ありあまる時間。これからどう自由に、暮らそう。わくわく期待に胸を躍らせた。 しかし、そのような日々が長いことつづいてくると、だんだんと辛くなってくるものなのだ。いつまでたっても、ひたすら自由な生活に、人びとはあきあきしてきた。 そういえば以前、こんな話を聞いた。苦労せずとも、常にエサが手に入る。そんな状態は、ネコ以外の動物にとっては、ストレスになるそうだ。 人間も、ネコのような動物であったらよかったのに。 9c96683b-b5c2-46aa-a4fd-ac2f1d6a2398 そしてこんな話も聞いたことがある。古代エジプトでは、ナイル川が氾濫して、農作業ができない時期があった。そこで人びとに仕事を与えるための失業対策として、ピラミッドが建設された、とかなんとか。 地球環境がまだ、それほどひっ迫していない時代なら、そのような大規模公共事業を計画するのも、ひとつの手だったろう。 しかしサステナブルだのなんだのが、大きくさけばれてひさしい現在。そんなことをするのは気がひける。 ひまに耐えられないというだけの理由で、無意味な労働を作り出し、エネルギーや資源を無駄にするのは、いささか愚かにおもえる。 そもそも、今さら労働というものに、まともに従事する体力や能力が、もはや現代人には備わっていない。 そこで、アートが推奨されたのだ。
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