「つらい仕事」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.10

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わたしの仕事はとても大変だ。毎日精神をすり減らし、人生の時間を無駄にしているように感じる。 なんで、こうもわりにあわないことを、つづけているのだろう。自分でも、ふしぎだ。 今日の仕事場は、ここだ。呼び鈴をならすと、すぐに家主はとびでてきた。 「ようこそおいでいただきました。待っていましたよ。さあ、どうぞ中へお入りください」 大きなスクリーンのある部屋へ通された。そして、そのスクリーンに映像がうつしだされた。 ブルーやグリーンの線がひょろひょろと、稚拙にうごいている。それだけの映像が、ただただ三時間つづく。 1c7b9d5b-0265-42a4-9372-5d27ace2d5bb 私は三時間で終わってくれて、むしろほっとしていた。なにせひどいときは、このようなものが半日以上続いたりするときもある。 「どうでした、わたしの作品は」 「とてもすばらしかったですよ。植物のもつ生命の力強さを、抽象的なタッチで、みごとに表現されていると感じました」 正直なところ、この三時間の映像がなにを意味しているのか、まったくわからなかった。どうにか『いのちの森』というタイトルが出ていたのを思いだし、そこから適当に、もっともらしい感想をひねりだす。 「まさにそれです!私が表現したかったのは、そういうことです。あなたのような理解のある方に鑑賞していただけて、本当によかった」 「もちろんです。ではまた新しい作品ができあがりましたら、おしらせください」 批評やアドバイスは、禁物だ。彼らは、よりよいものを作りたいわけではない。自己を適当に表現し、だれかにそれを承認してもらいたいだけなのだ。 他人を感動させる作品なら、古い時代にくさるほどある。 今は芸術家自身が好きなことをし、自分だけがたのしい作品をつくる時代なのだ。好きなことだけをする。それができる時代になったのだ。
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