大江戸闇鬼譚

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 それでも娘は健やかに育ち、婿を迎えるにも調度いい年頃になった。美しいとの評判もあり、婿入りしてくれるよい男性もすぐに見つかるだろう、そんな話も囁かれるようになっていたという。  しかし、半年前、突然の激しい雨が降った日のことだった。 「すみません」  家に旅僧がやって来て、雨宿りを頼んだという。もうすぐ日も暮れようという頃。妙観院は粗末な家だが泊まっていってはどうかと持ち掛けたという。  僧は軒先だけでもお借りできればいいと言ったが、そういうわけにもいかず、家に上げて歓待した。旅僧であるが身なりはよく、品のある人物だった。娘がもうすぐ婿を取ると知ると 「それならば、気が早いかもしれぬがこれを差し上げましょう」  と言って、荷物から金糸(きんし)組帯(くみおび)を取り出した。 「これは子安地蔵(こやすじぞう)腹帯(はらおび)です。これがあればすぐに御子に恵まれましょう」  そう言って娘に帯をくれたのだという。それは立派なもので、娘は大層喜んだという。妙観院もありがたいことだと、僧に何度も礼を述べたほどだ。 「これがその帯です」
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