大江戸闇鬼譚

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「き、肝が消えていた」  優介はどういうことですかと、大きく目を見開いている。 「なるほど。その僧の狙いは生き肝か」  しかし、飛鳥はすぐに理解した。妙観院も顔色が悪くなっていたが 「そうだと思います」  と頷いた。 「生き肝?」  それはどういうことだと、優介は解らないので訊ねる。 「そのまんまさ。生きている奴の肝を抜くんだよ。本来は動物の肝が万病に効くと言われているんだがな。どういうわけか、そいつは人間の肝に拘ったようだ」 「へ、へえ。万病に」  納得したように頷いた優介だったが、そんなものは食いたくないと顔に書いてあった。飛鳥も人間のはお断りだなと苦笑いをする。と、そこで妙観院の悲しそうな顔に気づいて咳払いをした。 「しかし、そうなるとますます奇妙だな」  そして話を元に戻す。 「ますます? どうしてだ?」  優介も神妙な顔に戻って訊ねる。 「それはそうだろう。生き肝を抜いたのだとすれば、まあ死んだ直後のものでもいいから娘を刺し殺した後だったとしてもだ、その僧がまったく返り血を浴びていなかったのはおかしいだろう」 「あっ」
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