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「桜鬼よ、いい加減、里に帰る気になったか? お前はこんなところにいていい者ではない」
だが、それにいい顔をしないのは同族の鬼だ。今日も何とか連れ帰ろうとやって来た幼馴染みは、苦り切った顔で寝転ぶ鬼を見ている。
「今の俺は飛鳥。もしくは判じ物の先生だぞ」
桜鬼と呼ばれた鬼は、にやりと笑ってみせる。それに幼馴染みの鬼は溜め息だ。そんな彼も今は上手く化けて武士と変わらない姿だ。
「馬鹿馬鹿しい。そんなことをやって何になる。人間なんて脆弱でずる賢いばかりの存在だ。仲良くしたところで、我らが鬼だと解ればすぐに追い払われる。もしくは殺される運命だぞ。それに人間は我らよりも先に死ぬんだ。仲良くしても、そいつらはすぐにいなくなるんだぞ」
何とか諦めさせようと幼馴染みは説得する。が、桜鬼がそれに応じる様子はない。すでに三年。こうやって人間の振りをして生きている。そして幼馴染みもこの三年、度々江戸の町までやって来て説得する羽目になっている。
「お前は本当にそう思っているのか、柳鬼よ。江戸の町は見ていて飽きないぞ。それに人間は優しく楽しく可愛い存在じゃないか」
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