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さらに桜鬼に考え方を変えてはどうだと逆に説得される羽目になる。全く以て、なんでこいつと幼馴染みなんだろうと、そんなことを考えてしまう理不尽さだ。
「人間の姿をしている時は雨月だ」
そして諦めてそう言うしかない自分に腹が立つ。
人間の振りをするだけでも嫌なのに。そう思っていても、この風変わりな幼馴染みは意にも介さないのだ。そして様子を見に来るのを当たり前だと思っている。そこがますます腹の立つことだ。
雨月が大きく溜め息を吐いた時、長屋の戸ががらりと開いた。
「おや、雨月さんもいらしてたんですか」
戸を開けたのは、なぜか飛鳥と連んでいる、戯作者なんてやっている旗本の次男坊の松永優介だ。今年二十五になるこの男は、優男で鬼が指で弾けば死んでしまうのではないかというほど線が細い。
「すぐに出る」
こいつが来たら面倒だと、その穏やかだが何も考えていないような面構えの優介にうんざりとし、雨月は立ち上がった。実際、何も考えていないから飛鳥と連んでいるのだろうと、雨月はそう思っている。
「もっとゆっくりなさっては」
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