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「ねえ剛毅……うららが提出し忘れてた領収書があるんだけど……いいかな?」
部屋に入って来るなり挨拶もなしにスッと自分の席に行ってしまったうららの代わりに、俺の前に立ったのは智史だ。
画材屋の名前が書かれた、いまどき珍しい手書きの領収書を、俺の目の前にさし出し、ニッコリと笑う。
「遅くなって悪いね……」
しかし残念ながら、一部の女子に絶対的人気を誇る天使の微笑みは、俺には通じなかった。
「智史……うららから直接話を聞きたいから、ちょっと起こしてくれ……」
席に着くそうそう、窓に頭をもたれかけて寝てしまった、おそらくうちの生徒会で一番やる気のない彼女にご登場願おう。
なぜなら――。
「えっ? どうして? 何かおかしなことがあったかな?」
ニコニコと笑顔で応待しつつも、実は全然目が笑っていない智史が、見た目ほどは清廉潔白でないことを俺は知っている。
「いいから」
念を押すと、フッと薄く笑んで、すぐに天使の微笑をひっこめてしまうのがその証拠。
「まったく……そんななりして、剛毅って実は堅物だよね……」
うららを起こしには行かず、智史が制服の胸ポケットから出したのは、書いてある金額がさっきの半分しかない領収書だった。
「智史……この文房具店のおばさんに、お前、何を渡した……?」
筆跡も日付もまったく同じなのに、金額だけがあまりにも違う領収書を見比べながら尋ねたら、智史はあっさりと白状した。
「貴人と諒と僕の写真……安いもんでしょ? ねえ折角だから、金額の高いほうで申請しない?」
「却下」
「まあ、そうだと思った……」
俺は正しいほうの領収書を山の一番下に加え、不当に金額を水増ししてもらったほうを、腹の中は決して純白ではない『白姫』が、これ以上悪用しないようにビリビリに破って捨てた。
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