挿話1 『HEAVEN』の金庫番 澤田剛毅のぼやき

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「剛毅! すごいぞ! すごくいいことを思いついた!」  俺が女だったらまちがいなく惚れていたであろう笑顔で、嬉しそうに部屋に駆けこんで来たのは、わが『HEAVEN』のボス――貴人だ。 「交流会の次のイベント! 時期的にクリスマスかな……って思いながらテレビを見てたら、すごくいいことを思いついた!」  いつだって貴人の頭の中は、いかにして全校生徒の『希望書』を実現するかってことでいっぱいだ。  しかしさすがに、テレビを見ている時もとは恐れ入る。 「へえ……どんなのだ?」  感嘆しながら問いかけたら、文字どおり、目をキラキラ輝かせて教えてくれた。 「もみの木って、本当はかなり大きいんだよな……だから本物のもみの木で、巨大クリスマスツリーを作ろう! そしてその下で、みんなで盛大にクリスマスパーティーをしよう!」  貴人のひらめきはいつだって楽しそうで、聞いているだけで俺だってワクワクしてくる。  だが、いかんせん現実離れしている。 「もみの木っていったって……うちの学校には生えてないぞ?」  怪訝な顔をする俺に、貴人はニッコリ笑顔のまま「ううん」と首を横に振った。 「持ってくればいいよ! 山から切り出して、ダンプカーに乗せて、ここまで運んだらクレーンで立てよう! どう? よくないか?」  スーッと熱の引いていく思いを実感しながら、俺は短く告げた。 「よくない。金と手間がかかり過ぎ。却下」  その答えが帰ってくることは、あらかじめわかっていたらしく、「ハハハッ」と笑いながら貴人は自分の席に着く。  俺もようやく先が見え始めた領収書の山から顔を上げ、大きく背伸びをした。
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