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「なんであんたが先を行くのよ!」
「こっちのセリフだっ!」
傍から聞いていたら、二人の会話はまるで痴話喧嘩にしか聞こえないのに、本人たちはまるで気がついていないという、奇跡のカップルのお出ましだ。
同じクラスで席も隣同士という諒と琴美は、何かにつけていつもやりあっている。
お互いに好意を持っているのに、そんなことは有り得ないとそれぞれが信じきっているものだから、まったく進展しないところが少し気の毒で――すごく面白い。
二人を見ているとついついいつも笑ってしまいそうになる俺に向かって、諒が真顔で問いかけた。
「恐っ! そんなに睨むなよ、剛毅……俺なんかしたか?」
自分でも、柔和な顔じゃないことは重々承知だが、かりにも笑いをこらえている時に、この言われようは腹が立つ。
「したに決まってるでしょう! じゃなきゃこんなに睨まれるわけないじゃない!」
悪意のない声で、琴美がさらに肯定すればなおさらだ。
「お前らな……!」
怒りを収めようと、内心必死の俺に向かって、琴美が最終爆弾を落とした。
「わかった! 事後処理の仕事が多くてイライラしてるんでしょ? 私手伝うからっ!」
確かに頭の回転は早いのかもしれないが、解釈の方向があまりにも独特なのと、思いこみの激しさが琴美の欠点だ。
今も、あっという間の早さで俺の隣に腰を下ろして、さっさと領収書の仕分けを始める。
全然そんな心配はいらないのに、チラチラと俺を気にしている諒が、哀れというかなんというか――。
俺はちょっとため息をつきながら、夏からこっち、いつかは琴美に聞いてみなければと思っていたことを、思い切って口にした。
「琴美……俺の『HEAVEN』での役職知ってるか?」
「体育部長でしょ?」
琴美は「なんで今さらそんなこと?」と問うような顔で、俺を見た。
その先の反応がもう見えたような気で、俺は再びため息をつきながら問う。
「じゃあ、お前は?」
「会計だけど……?」
こいつが学年三位の成績だなんて、と虚しくなる俺の目の前で、諒がキョトンとしている琴美の肩を、トントンと叩いた。
「つまり……領収書整理も、帳簿づけも、もともとお前の仕事なんだよ! いつも剛毅のほうが手伝ってくれてるんだろ!!」
「えええええっ!!」
別にそんなこと今更もう気にしてないから、できればもうちょっと静かにして欲しいと、俺はやっぱりため息をつきながら、願わずにはいられなかった。
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