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映像が切られる。呆然としている僕に、二宮さんが静かに言う。
「愛される、のは数だけではございません。深さです。あなたは数こそ少ないものの、一人一人に深く愛されている。だからこの数値が現れたのですよ。一億という巨大な数値が」
「え? 僕、二億じゃ」
「ああ、残りの一億はあなたのお父様が残された一億です。一足先にここへ来たお父様からの贈り物ですよ」
もう顔も思い出せない父を想う。過ごした時間は短くても、父もそれだけ僕を愛していてくれた、ということか。自分が早くこっちに来てしまったことを申し訳なく思い、せめてもの贈り物として、僕に資産を残してくれたのかもしれない。
そうか、父さんもか……父さんも、僕を想っていてくれたのか。
ぼんやりとしながら自分の頬に涙が伝ったのに気づく。ここへきて初めて涙を零した。
ああ、僕の人生ってあれでよかったんだな。短かったしやりたいこともまだあったけど。悔しいけどでも、あんなに愛してくれる人たちに囲まれて幸せだった。
僕という人間が消えた時、あれだけ泣いてくれる人がいる。
多くなくていい。数じゃない。
あの人たちが、僕の生きた証だ。
「凄い数値ですよ二億二千。これならAランクも狙えるかもしれません。どうなさいますか」
二宮さんの質問に、僕は小さく笑った。そして彼の顔を見てきっぱりと言う。
「僕、普通の人生を選びます」
「…………」
「勿論上ランクの人生も素敵だと思いますけど。普通の人生で、なんとか頑張って、そんな中で出会える人たちを大切にしたい。来世はもっと周りに感謝を伝える人間になりたいです」
手のひらで涙を拭き取る。二宮さんに笑いかけた。
「残りの資産は、今僕のために泣いてくれた三人に分けてください!」
それを聞いた二宮さんは、ゆっくり微笑んだ。彼の笑顔を見るのは初めてだった。
「あなたさまのような方なら、きっとどんなランクの人生でも幸せになるでしょう。残された三人も。きっとまた来世で会えますよ」
彼の優しい言葉に頷いた。深々と頭を下げてくれる二宮さんにお辞儀を返し、振り返る。
自分の大事な人たちの顔を思い浮かべながら、大きく頷いた。
もし、またあなたたちに会えたなら、今度はもうちょっと素直になって向き合おう。ありがとうって、僕にとっても大事な人ですよ、って、面と向かって伝えるんだ。
来世ではきっと、またいい人生が待ってる。
誰かに必要とされ、愛される人生が。
僕はオークション会場に向かって足を踏み出した。
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