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「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
銀縁メガネをかけ、髪をしっかりと固めた男がそう頭を下げた。身長がやけに高く、年は三十代半ばくらいか。ニコリともしない無表情が冷たく感じた。
僕は周りを見て戸惑いを隠せない。目が覚めた瞬間ここに立っていた。見覚えのないフロントらしき場所にただ慌てた。
「あ、あれ? あの、僕??」
「お待ちしておりました、ここは人生が終わった人間が行き着く場所。私は二宮と申します」
「は、はあ……?」
「信じられないかもしれませんがあなたの肉体は死亡いたしました。ここで来世への手続きを行わせていただきます」
そう言われた途端、青いポルシェに轢かれたことを思い出した。はっとして自分の体を見る。傷一つない普段通りの体だった。
あの事故で無傷なんてありえない。これは夢か、幻か? それとも、本当に死後の世界?
今一度あたりを見渡す。あまり広くないロビーだ。茶色のソファにガラステーブル。どこにでもありそうなホテルのように見える。
「驚くのも無理はありませんし、ほとんどの方が初めは信じられないので」
「は、はい、全然信じられなくて」
「お名前を伺っても?」
「あ、高橋晴也です」
「高橋晴也様。少々お待ちください」
二宮さんは無表情のまま目の前のパソコンを素早く打った。もしここが本当に死後の世界だとしたら、パソコンがあるなんて凄いなと感心する。
「ああ……交通事故ですね」
「え!」
「仕事帰り、人気のない交差点でかなりのスピードが出た車に轢かれて死んでいます」
「合ってます……」
唖然として答える。二宮さんは一つ頷いてこちらを見た。
「この場所について説明します。先ほども申した通り、ここは死んだ人間が必ず行き着く場所。来世の手続きを行わせていただきます。来世の選び方はオークション方式です」
「え、オークション?」
僕は目を丸くして聞き返した。
「ええ、オークション方式です。来世の人生は多くの種類がございます。上は大富豪、人気芸能人、はたまた下は貧乏や刑務所行きになる人生」
「…………」
「今から高橋様の生前の資産について計算いたします。時間を要するので、それまで実際の場所を見ていてくださいますか。今ちょうどオークションの真っ只中なのです」
目の前が真っ暗になった。僕は決して信仰深い人間ではないが、それでも真面目にコツコツ生きていれば神様は見ていてくれるんだって心のどこかで思っていた。
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