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冷たく言い放った二宮さんは何やら操作をする。するとフロント奥にある真っ白な壁に突如映像が映し出された。それは目の前で現実を見ているかのような鮮明な光景だった。
喪服姿の人たちが大勢映る。かなり盛大なものらしく、参列者もかなり多いようだった。
「ほ、ほら、俺の葬式、こんなに人が……!」
『あいつ飲酒運転で死んだとか馬鹿じゃね?』
意気揚々と話し出した加賀武志の声にかぶさるように、映像の中の一人が言った。若い男女たちだった。
『元々馬鹿だったじゃん。ただの金ヅル』
『金払いよかったもんなー! それだけがあいつのいいとこだわ』
『親が金持ちなだけだろ? なのに本人偉そうで笑える』
『お前付き合ってたろ?』
『金なかったらあんなアホと付き合ってないって! 他にも彼女いたらしいしさーバレてないと思ってんの。全員知ってるっつーの』
加賀武志の全身がワナワナと震える。画面が切り替わり、今度は中年の男性と女性が映った。
『飲酒運転……一人で死ねばいいものを、歩行者を巻き込みおってあの馬鹿……』
『自由にさせすぎたんでしょうか、お金さえ渡しておけばあの子大人しかったから……』
『元はといえばお前の教育が悪いんだ! どうする、あの馬鹿のせいで会社の経営にも関わってくるじゃないか、もしかしたら終わりかもしれん!』
『車を貸したのだってあなただったでしょう? ずっと息子に無関心だったくせに、こんな時だけ偉そうに!』
言い争いを始める男女はおそらく彼の両親なんだろう。悲しみより怒りで満ちた二人は、唾を飛ばしながら延々と喧嘩を繰り返してた。
その背後には、笑っている加賀武志の遺影がある。
「も、もういい……止めてくれ!」
隣で彼は叫んだ。二宮さんが指示通り映像を止める。
加賀武志は真っ青になっていた。十四の資産で、一体来世どんな人生が待っているというのだろうか。
そのまま彼は突然奇声を上げた。甲高くて耳にキンとくるひどい声だった。そしてわからない言葉を繰り返すと、凄い速さでオークション会場へ走り出してしまった。
「あ! か、加賀さ」
「大丈夫です、あちらのスタッフに取り押さえられるでしょう。放っておきなさい、ああいう人間は現実を受け止めるのですらうまくできないのですよ」
冷たい声にびくっと反応してしまった。相変わらず無表情なのが怖い。
二宮さんは何も気にしてない様子で続けた。
「高橋様も、見られますか?」
「……え」
「あなたの資産の内容を」
そう、加賀武志の十四にも驚いたが、なんと言っても僕に二億越えの資産があることも信じられない。だって、無口で友達だってほぼいない僕なのに。
ごくりと唾を呑む。そっと頭を下げた。
「……お願いします」
二宮さんが無言で操作する。目の前に映し出されたのは、見慣れた顔たちだった。
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